彼女を10日でオトします
 中野駅についたのは、日が傾き始めた頃。
 サンモールへ入るためのロータリーにかけてある横断歩道は、今日も人が絶えない。

 この人ごみを見ると、正直ほっとする。
 空が広い保田もいいけれど、すれ違うのが歩行速度レベルで自転車を漕ぐじいさんだけっていうのも、俺からしたら落ち着かない。

 病院は改札を出て、徒歩でだいたい15分くらいの場所だったと思う。

「たすくさん、バスで行く?」

「歩きでいいよ」

「ふーん。たすくさんらしくないわね。
タクシーで行くっていうかと思った」

 キョンと歩けるっていうのは、すごく嬉しいんだけどねえ。

 やっぱり、さ。

 北口のロータリーを尻目に早稲田通りに向かって中野通りを歩く。

「キョンキョン、ドンキ寄っていい?
洗剤切らしてたんだわ、俺」

「帰りでいいでしょ」

 帰りのことなんか、考えられないって、今。

「キョン、本屋行かない?
ちょうど、深海魚図鑑欲しかったんだ」

「帰りね」

「じゃあ、マツキヨ!!
まじ、胃痛いの。サクロン買ってくる」

「これから病院に行くのよ。
ついでに見てもらったら?」

「じゃ、じゃあ、えーと――」

「たすくさん!!」と、キョンは立ち止まった。

 睨まれる!! と身構えていたけれど、俺の瞳をまっすぐに見上げるキョンの目は、切なそうに揺れていた。

「いい加減に、腹、決めなさいよ。
逃げるつもり?
いいわよ、逃げたって。
でも、いくら逃げたって、罪の意識はどこまでも追いかけてくるわよ」

 わかってる。キョン、俺だってわかってるんだよ。
 わかってるけど、でも……。

< 360 / 380 >

この作品をシェア

pagetop