彼女を10日でオトします

 遅かった。

「随分と久しぶりだね。3年ぶりかい?
その、見た感じ、怪我は直ったようだけど……」

 と川原は温容をめいっぱい顔に貼り付けて胸の前で両手を広げる。

 思わず口の中で舌を打つ。

「お陰様で」

 感情を置き去りにした声が腹から出る。

「少し、話をしないかい?
君の大嫌いなママの話でも」

 眉毛がぴくりと意志に断り無く動いた。

「いいですよ、川原さん」

「彼女も……一緒にどうだい?
私にとって、君は弟みたいなもんだ。
弟の彼女とも話がしてみたい」

 何が弟だ。ふざけるな。

「いいえ、彼女は、これから――」

「彼女に、隠すの?」

 俺の返答に川原が質問を被せた。

 隠すの? と聞かれると答えが見つからない。
 隠したいわけではないけれど、敢えて知らせる必要はない。

 それは、キョンを、奥深くまで巻き込むことを意味しているから。

 寒気がする微笑み。その目でキョンを見るな。

「彼女、も、これまでのこと、聞きたいよね?」

 キョンは、川原の顔を凝視しながら、俺の手を探し当てて強く握った。

 力を入れて尚、手が、震えてる。

 キョンは頷いた。
 駄目だ。キョンはこいつと一緒にいちゃいけない。

「オーケイ。じゃあ、あそこの公園に行こうか」

 川原は、心底楽しそうな声で言った。


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