彼女を10日でオトします
口止めは3年前から
目の前に、青い扉。表札はない。
鉄製のそれの上に直接ペンキを重ねているのか、その四隅の青が剥がれかけていて一目で築年数がわかる。
その扉の前に立っている俺は、緊張を感じている。
あの時と同じだ。
あの時――、釈放直後、その足でここに来た。
デジャヴ?
……違う。これは、俺の記憶。
俺は、ノブに手をかけた。
大きく息を吸う。
回すと、カチャ、と控えめな音がして、施錠していないことがわかる。
手前に引く。
大声が耳に入った。
聞き覚えのある声。
琴実の声だとわかる。
琴実……事のときは、まだ、琴実のことを『コットン』とは呼んでいなかったと思い出した。
「兄ちゃんのせいで!!
兄ちゃんがたすくのお母さんをとったから、たすくも私も――」
まず、琴実の背中が目に入った。
肩を怒らせて、大きく上下させている。
「たすくはね!! 私の大事なトモダチなんだ!!」
胸が軋む。
この時、俺は、琴実の事を、復讐の為の道具としか見てなかった。
『琴実、家族割りっていうのがあるんだ。お前正直、金銭的にキツイだろ……?』
そう言って、川原を紹介させた。
川原に覚せい剤を流す為のただの道具。
「琴実、落ち着け。兄ちゃんが悪いのは、わかってる。
だけど、愛しちまったんだ……」
琴実の正面には、川原。
殺風景な部屋。
俺と親父に追い出された川原と母親がたどり着いた汚い部屋。
「トモダチを苦しめる兄ちゃんなんか!!」
琴実は腹の前で何かを握っているのがわかった。
俺は、慌てて部屋に上がりこんだ。