彼女を10日でオトします
月日は過ぎ
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「すいません、これ、ふたつください」
私は、バケツに入った、真っ白い紙が巻かれている花束を指差した。
「はいよ」
黄色いエプロンを身につけた気の良さそうなおじさんが、笑顔で束をバケツから取り出す。
「あの、下から15センチくらい切っていただけますか?」
「あい」
おじさんは、白い紙を丁寧に開いて、茎にハサミを入れる。
パシン。切り落とされた茎は、そのまま落下し、ゴミ箱の中に吸い込まれていった。
お代を渡して、白い紙が巻きなおされた花束二つを抱える。
長く、急な坂道を下りながら、胸に抱えた花の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
菊の香りが似合う季節になったな。
爽やかな、しかし、強い風が、髪の毛を弄ぶ。
春一番は過ぎても、風の強さは相変わらず。
お花、飛ばされなければいいけど。