彼女を10日でオトします
「つかぬことをお伺いしますが、燈子さん。
俺、突き飛ばされるような、悪い事したっけえ?」

 ゆーっくり立ち上がって、ゆーっくりお姉ちゃんに振り向こうとする戸部たすく。
 ひぃ。ある意味ホラーだ。

「あ、あなた、き、響ちゃんのこと……」

 ミス、じゃなくて、ミセス・しどろもどろ。お姉ちゃんは目を泳がせた。

「あっれー? 俺は、急発進して転びそうになったかわいーい子を助けて、それでいきなり泣き出したその子を慰めただけだと思ってたんだけどお?
違ったかなー。キョンはどう思う?」

 き、キョン!?
 キョンって誰?

 戸部たすくは上半身だけひねって、後ろにへたり込んだままの私を見下ろす。

「ねえ? キョン?」

 キョンって、もしかしなくても――

「私、ですか……?」

「そ。響子ちゃんだから、キョン。
で、どう思う? 燈子さんに突き飛ばされなきゃいけない理由ある?」

 え……っと。

「お姉ちゃん、あのね……、私が勝手に動転しちゃっただけなの……」

「え!? で、でも、響ちゃんは、何もされなきゃ動転するような子じゃないじゃない!」

「そうだぞ!響ちゃんの神経は、かなりずぶといんだ!
たすく、お前、響ちゃんに何をした!?」

 貴兄がずいっと前に出てきて、戸部たすくの胸倉を掴む。

 ちょっと貴兄……そのフォローの仕方は、酷いんじゃない? いや、もはやフォローとは言うまい。それをフォローって言ったら私、家出してバイク盗んで校舎の窓(保健室限定)壊すわよ。

「貴兄、違うの。
その、見えなくて……。この人の数字が見えなくて……私が勝手に……」

「ってさ。貴史ちゃん、この手、随分じゃない?
いいのかねえ。なあんにもしてない可愛い生徒の胸倉掴んじゃって」

 慌てて手を離す貴兄。戸部たすくの後頭部がゆっくりと横に傾く。
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