彼女を10日でオトします
「見えなかったって、響ちゃん、どういうこと?
もしかして、今も……」

 お姉ちゃんは、私のそばに座って、私の目を覗き込む。

「……うん」

 戸部たすくを見上げる。
 戸部たすくはいつのまにかこちらに向き直っていて、私と目が合うと、にこっと笑顔を作った。

「戸部……さんの周りだけ、数字が見えないの……。おねえちゃんの16は、見えるけど……」

「たすく、すまん。悪かったな」

 貴兄は、戸部たすくに頭を下げる。
 
 貴兄……。

 私は、戸部たすくがニヤリと笑うのを視界の端で捕らえた。

 え?

 ニヤリ……? 

 直後、ピントが合った戸部たすくの顔は、ぷーっと頬を膨らませた可愛らしいものだった。

 あれ? 気のせいだったかしら。

「やだね。許さない。
だって俺、突き飛ばされて痛かったしぃ。何にもしてないのに責められちゃったしぃ」

 なに、この人……。貴兄が誠意を込めて謝っているのに、許さないなんて。

「ごめんなさい! 私の勘違いで……」

 今度はお姉ちゃんが頭を下げた。

「どーしよっかなー」

 戸部たすく。すごい嫌な男。

「戸部さん、ごめんなさい。私のせいで」

 私も謝罪の言葉を並べた。私が悪いとはいえ、こんな男に頭を下げるのは御免だから、かわりにその綺麗に整った顔を見据えて。

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