彼女を10日でオトします
ヒデが携帯電話の終話ボタンを押すと同時に、俺は激痛と束縛から解放された。
「あー、もう、俺の声真似して何やってんのよぉ、ヒデちゃん」
しかも似てるし。
俺は、すかさず携帯を取り戻すと、ケツポケットにねじ込んだ。
「来週、ミーナちゃんと3日間お泊り頑張ってね、たすくくん」
はあ?
「今、約束しちゃった」
えへ、っと舌を出すヒデ。えへ、じゃないでしょうが。気持ち悪いっつうの。
「勘弁してよぉ。ミーナちゃん、全然寝かしてくれないんだからぁ」
「ざまあみろ、たすく。7時に高円寺駅集合!!真田先生は来れないの?」
コットンは、そう言いながら、貴史ちゃんの腕を引っ張る。
上目遣いが板についてないので、はっきり言って、そのおねだり、全然可愛くありません。と、俺は、心の中でさっきの十文字固めの復讐を果たした。
「だから、俺を誘うな。しかも、俺、結婚してるし」
左手の薬指を見せる貴史ちゃん。そこには、プラチナと思しき細いリングが。
「なになに、貴史ちゃんって、若いのに結婚してたのね。奥さん怖いの? 今はやりの鬼嫁?」
「怖くはないが。嫁がいるのに行かないだろ、普通は。そんな事より、お前達、そろそろ授業に戻りなさい」
「アタタタ。コットンにやられてせいで体中が痛くて。教室に戻れませーん」
貴史ちゃんは、そんな俺の頭をベシっと叩く。
「いたぁい。俺、暴力をふる貴史ちゃんなんか嫌いよ!」
ぷいっとそっぽを向く俺を見て、がっくり肩を落とす貴史ちゃん。
「はあ。全く、お前は……」
「あはははは。貴史ちゃん、迷惑かけて悪かったね。ヒデ、俺、もう帰るわ」
「あ?授業は?」
「気分が乗らないから帰るの」
ベッドから降りて、上靴に足を引っ掛ける。トントンっと。
「ちゃんと授業にでなさい!」
保健室の扉をガラガラ開ける俺の背中に、貴史ちゃんがほえる。
「い、や。また明日ね、貴史ちゃん」
「お前、また明日もここに来る気か!」
うん、もちろん。