彼女を10日でオトします
「ふうん。キョンって俺と同じ2年だったの。B組ね。
あんな可愛い子見逃してたなんて、たっしーショック」

 俺は、ノートパソコンの横に座って、デスクにうなだれる貴史ちゃんを尻目に、足をばたつかせる。

「……たすく、響ちゃんを傷つけることだけはやめてくれよ」

 傷つけるわけないでしょーが。なぁに言ってるんだかね。

 それにしても元気がない貴史ちゃん。貴史ちゃんはよく頑張った。可愛そうだから、一応褒めといてあげないと。

「貴史ちゃん、意外と根性あるんだねぇ。俺、もっとあっさり折れるかと思ってた」

 貴史ちゃんの頭をいいこいいこと撫でると、ペシンと弾かれてしまった。つれないの。やっぱり怒ってるのかしら。

「たすく、ひとつ質問していいか?」

「ひとつと言わず、たっぷりどうぞ」

「昨日、どうして、金に困ってるなんて嘘ついたんだ?」

「いやだわぁ。嘘なんて心外よお。ただ、キョンと一緒にいられますようにっていう願掛けしただけじゃない」

「だから、お前、それが……」

「さあて、そろそろ帰りのHRが終わる時間だね」

 デスクから飛び降りて、扉に向かう。これからキョンを迎えにいくのさ。

「あ、そうそう。貴史ちゃん、今日は頑張ったご褒美にいいこと教えてあげる。
さっきみたいなときは、まず、何言われても怒っちゃだめ。
相手の言うことを信用しちゃだめ。それから――」

 扉にかけた手を上げて、人差し指で自分の頭を2回つついた。

「ココをフルに使わないとだーめ。じゃないと、簡単にペラペラしゃべっちゃうよ?
じゃあね、貴史ちゃぁん。またあっとで」

 扉を開けるガラガラの音の狭間に、貴史ちゃんの声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせい。

 あーあ、まずったなぁ。未来のお兄さん敵に回しちゃった。

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