彼女を10日でオトします
「あ……、うん。あの、教卓の目の前の席に座ってる三つ編みの子……。ね、たすく、どうしたの?」

 はう。まずい。つい、イラっとして。

「なぁに言ってんのよ、ゆっこちゃん。どうもしなーい。
ありがとうね。んじゃ、またねぇ」

 呆然とするゆっこちゃんの頭をわしゃっと撫でて、その横を通りすぎた。

 女の子を睨んじゃうなんて、俺どうしたんだろ? 何でイラっとしたんだろ?

 教卓の目の前の席、腰の位置までの長い三つ編みをふたつぶら下げた女の子背中を見つけた。

 机から教科書を出して、鞄にしまっているみたい。

「キョーン。一緒にかーえろ」

 後ろから声をかけると、キョン……らしき女の子は、肩をピクッと上下させた。

 返事がない。

「キョン、無視しちゃダメでしょ?」

 ううん。また無視? キョンは、ピクリとも動かなくなった。

 痺れを切らした俺は、キョンの前に回って――

「あれぇ? キョン?」

 目の前で、背中を丸めて俯くキョンは、昨日とはまるで別人だった。

 三つ編みは、まあ、あまり関係ないとして、問題は、長い前髪が顔の左半分を覆っているところ。露になっている右側には……実物はじめて見た。牛乳瓶の底眼鏡だ!

「キョン?」

 俺は、キョンと机を挟んでその場にしゃがみ、その机に頬をつけてキョンの顔をのぞきこんだ。

「……あっちに行って下さい」

 キョンは俯いたまま、小さな声でつぶやいた。長時間口を閉ざしてた、みたいなとても掠れてた声。

 んー。俺、嫌われてる? でも、俺はキョンのお願いをきく気は毛頭ない。

「やあだ。ねえ、キョン、顔上げて?」

 キョンも、俺のお願いをきく気はないみたいね。俯いたまま、首を横にふった。

 俺は、キョンの顎を手のひらに乗せてゆっくりと持ち上げた。
 意外。全然抵抗しない。

 調子にのった俺は、顔の左側にかかった前髪をキョンの耳にかける。
 
 ああ、キョンだ。

「やっと目があった。キョンは、やっぱり可愛い。ね、一緒にかえろ?」
 
  
< 56 / 380 >

この作品をシェア

pagetop