彼女を10日でオトします
 校舎を出るとすっかり冷たくなった風が、頬を撫でていく。
 名前も知らない落ち葉が、くるくると足元で踊る。えい。クシャ。いい音だこと。

 玄関前に敷き詰められた赤れんがと、革靴の底がぶつかる。
 ぺたんぺたん。校舎の壁に反響して、思った以上のボリューム。
 
 校舎の裏側の校庭では、体育をしているみたい。女の子たちの笑い声が小さく聞こえる。
 いいねぇ、ちょっと見に行こっかなぁ。
 
 正門に向かって、ぺったぺった歩いていると、
『たっしー!!帰っちゃうのおぉ?』
後ろから声がふってきた。だいぶ上の方から。
 
 振り向いて、校舎を見上げる。わお。
 
 3階の窓の一つから、身を乗り出して俺に手を降る女の子。そこの場所は、おそらく廊下。いいのかね、廊下に出て。授業中だぜぃ。
 
 えーと、あの子は……。えっと……、思い出した!
 
「ナナちゃーん!今から帰るのー!俺が居ないと寂しーい?」
 
『あははは!めっちゃ寂しーい!泣いちゃうかもお』
 
 ……随分楽しそうだと思うのは、気のせい?

「可愛いナナちゃんの泣き顔も見てみたーい。俺がいっぱい慰めてあげちゃうー!」

 3階の窓に向かって声を張り上げる。ナナちゃんはさらに身を乗り出した。茶色い巻き髪が冷たい風に揺れる。ナナちゃん、落っこちそう。

『今度またデートしてねー!!』

 大声のナナちゃんのお腹がちらり。いい子の俺に神様からのご褒美かしら。ピンクのブラもみいちゃった。ラッキー。

「りょーかーい。じゃあねー」

 俺は3階に向けて手を振って、ナナちゃんに背中を向ける。そして、再び正門の向けて歩みを進めた。

< 6 / 380 >

この作品をシェア

pagetop