彼女を10日でオトします
「戸部さん」

 顔を上げたキョンの瞳は、まっすぐ俺を見つめる。
 
 眼鏡をかけていない瞳。
 不覚。その光線めいた力強い視線に、俺は動けなくなってしまった。

「な、なぁに? 俺の気持ちが聞きたいとか? 俺、キョンのこと好きだよ」

「『好き』って言葉を逃げの一手に使わないでください。
そんな軽い言葉、全く胸に響かないわ」

 刺すような視線を維持したまま、キョンは確かめるように言う。
 
 その一言一言が、ずしんと俺の中でリピートする。
 
「あなたはどうして、たくさんの人とお付き合いしているんですか?」

 どうして?

 キョンの真剣な眼差しに対して俺が発した言葉は「女の子が好きだから」とか「そこに可愛い女の子がいるから」という、いつも俺が使う言葉じゃなかった。

「知りたいんだよ。恋や愛がどれほどのモノか、はたして我が子を捨てなきゃいけないほど大きなモノなのか、って」

 俺の口から勝手に飛び出した言葉は、情けない『本心』。

 あ……、俺……。

 初めて胸のうちを打ち明けてしまった、恥ずかしさと不安と、ふっと軽くなったような心地が俺を支配する。

「それで、知ることはできたの?」

 キョンは、眉ひとつ動かさずに、俺に尋ねた。

「ううん、まだ捜索中」

 苦笑いで、そう答えると、

「馬鹿ね……」

 キョンは、柔らかな笑みを俺に返した。

 

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