彼女を10日でオトします
「ふざけんじゃねーよ!」

 私の極めて素直な謝罪に、なぜか機嫌を損ねてしまった春っぽい子が、私の胸倉を激しく掴む。

 戸部たすくの「気をつけてね」の意味って、これだったのかしら。

「てめー、ブスの癖にたすくを独り占めしてんじゃねーよ」

 ……原因は、やっぱり戸部たすくなんじゃない。つくづく迷惑だわ。

「ブスは認めるけど、独り占めっていうのは、心外ね」

 冬っぽい子の顔がみるみる赤くなる。この赤さっていったら、お姉ちゃんといい勝負かも。

「ナマイキなんだよ!」

 冬っぽい子の右手がふりあがり、「ぶたれる」って思った瞬間、

「あはははは、在原さんって面白いね」

春っぽい子と冬っぽい子の後ろから、場違いな笑い声が聞こえてきた。

 私の前に立ちはだかる二人の間を割って、ぬっと出てきた顔、この子もクラスで見たことある。

 確か、音楽っぽい名前の……

「こ、琴実!」

 そうそう。ショートヘアが紅葉した彼女は、琴実さん。
 春っぽい子の慌てた声に思わず相槌を打つ私。

「さくらに、ゆきこ、だっけ? あんなちゃらんぽらん男の為にこんなことしてるんだったら、やめておきな」

 そうそう。さくらさんとゆきこさんだったわ。

 琴実さんは、二人を交互に見下ろす。

 琴実さんの鋭い視線に圧倒させたのか、冬っぽい子は私のプラウスをすごすごと離した。

「ああ、それと私、『キョン』ちゃんに用があるから、どっか行ってくれない?」

 き、キョン? 
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