彼女を10日でオトします
 今、不吉な呼び方が耳を掠めたような……。

「さぁて、『キョン』ちゃん。邪魔者もいなくなったことだし――」

 気づいてみれば、いつの間にか、さくらさんとゆきこさんの姿は消えていて。
 琴実さんは、私の隣に腰を下ろした。そして、私の腕を掴んだ。

 いや、お姉ちゃんは、私がレズだって勘違いしたままだけど、私は全くそんな――。

「ほら、キョンちゃんも座りなよ。まずは、私のグチ、聞いてくれない?」

「グチ?」

 なんだ、良かった。私はてっきり……。

「そう。はい、座って」

 琴実さんに腕を引っ張られて、しぶしぶその場に座ることになった。

「あ、チャイム……」

 4時間目の始まりを告げるチャイムが、階段の下にも響いてきた。

「いいじゃん、いいじゃん。さぼっちゃえ」

 さぼっちゃえって……。

「あの、先ほどは、助けていただいてありがとうございました」

 体育すわりをしたたまま、頭を下げた。 
 ぶたれそうになった所を助けてもらったってことになるわよね。

「いいって。たすくに頼まれただけだけら」

 琴実さんは、手をひらひらさせて、困ったように笑う。

「戸部さんに?」

「そう。聞いてくれる? あいつさあ、昨日の夜中、しかも3時半よ、3時半。
人の迷惑も考えないで、そんな時間に電話かけてきてさあ、『キョンのココがかわいい』とか『キョンとこういう会話した』とか、ずーっと一人でペラペラと1時間も話しやがって……」

 うわ……。これって私、謝ったほうがいいのかな……。 
 
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