彼女を10日でオトします
 戸部たすく。調子がよくて、変態で、何考えてるかわからない最低男だけど……。

 私の左目を見ても、奇異な視線を向けなかった。それどころか、綺麗って言った。
 そのことが胸の奥でじくじくして、嫌いだ、嫌いだって思っても、突っぱねられないでいる。

 それに、昨日私の質問に対して「知りたい」って言ったときの、あの目。
 すがるような、今にも泣きそうな目に、一瞬だけど、心を許してしまったのは確か。

 ……あの後、キ、キスしてこようとしたから、今度は思いっきりビンタかましてやったけれど。

 今頃、保健室で、誰となーにやってんだか、わかったもんじゃないし。

 それにしても――

「ねえ、琴実さん。戸部さん、授業に出なくても平気なのかしら」

「え。キョンちゃん、たすくのこと苗字で呼んでるの? たすく、怒らない?」

 怒る? 苗字で呼んだくらいで?
 私だったら、戸部たすくに苗字で呼んでもらいたいぐらいだけど。

「ええ」

「……ふうん。
 あいつは、大丈夫なのよ」

「あ! もしかして、コネクション入学だから?
あれ、冗談じゃなかったのね」

「あはは。たすく、まだやってるんだ、あのテスト。
たすくは、コネで入学したわけじゃないよ。あいつならできるけど」
 
 
「テスト?」

 というか、できるんだ、コネ入学。

「そうそう。あれは、たすくの親を知ってるか、知らないかの検査なんだと。
よーく思い出してみなよ。それまでの話の流れ」

「うーんと、確か、私が宿題をしてて……それで、戸部さんがすごいって騒ぎ出して……あぁ、宿題したことないって……」

「キョンちゃん、そこだよ、そこ。
あいつ、おおもとは幼稚園からして有名私立だったんだから。宿題だってしてたはずだよ。そこから、話を誘導されたんだね、きっと」

 有名私立って……。
 あのあと、お姉ちゃんが、「よく高校入れたわね」って言ったんだっけ。
 あの野郎……朗らかな笑顔で嘘つきやがって。

「でも、なんで、そんな回りくどいことしなくちゃいけないのかしら。
 自分の親を知ってるか、否かってだけで」
 
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