彼女を10日でオトします
 なんなの!? わけわからない!

 困惑が大体をしめる頭の片隅で、戸部たすくに初めて会った日の温かい腕を思い出していた。

 『だいじょーぶ、だいじょーぶ』
 落ち着いた声で、耳元で囁いて、泣きじゃくる私の背中を撫でた大きな手。

 確かに、私はあの時、戸部たすくにぬくもりを感じた。それは認めるわ、1万歩譲って。

 今私の耳元で、飄々とした口調で変態発言を連発する戸部たすくにも、その温かさを微かに感じる。

 いや、温かさを感じてしまう……ことが腹立たしい!

 私、おかしいんじゃないの!? こんなペテン野郎に!

「離れなさい! さもないと、今度はグーで殴るわよ」

 できるだけ、きつく言い放つ。

「えー、離れたくないから離れない。いいもん、殴られたって離れないからぁ」

 幼稚園児か、こいつは。

「戸部さん、いい加減にしないと――」

「たすく」

 やけくそになった私の声を遮ったのは、真面目くさった戸部たすくのクリアな声。

 そして、戸部たすくは続ける。

「キョン、そろそろ、『たすく』って呼んでよ」

 びっくりするほど低い声で囁いた。
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