彼女を10日でオトします
「そ、そんなのどっちだって構わないでしょ……」

「『たすく』って呼んでくれたら、離してやってもいい」

 別人みたいな声。初めて感じる威圧感と切ない声が、心臓にドスンと響く。

「なあ、キョン……」

 どくん。

 私の名前を囁かれた瞬間、血が沸騰したような気がした。血管の中でA型の血液がうねりをあげる。

 さっきまで、なんてことなかった戸部たすくの息遣い。首筋に熱い吐息がぶつかって、ぞくりと身の毛がよだつ。

「ほら、みんな帰ってきちゃうよ?
Repeat after me た・す・く」

 物凄く流暢な発音と甘い声のささやきには、催眠作用が備わっているのかもしれない。
 その声に操られたかのように、勝手に口が動いた。

「……たすく」

 自分の声じゃないみたいだった。ふわふわする頭を力無く横切る声。

 絡み付いていた腕が、ぱっと離れ、次の瞬間、私の肩が大きく揺れた。

 今度は肩を掴まれた。

 ふ、と斜め上を見上げれば、戸部たすくの熱のこもった視線に捕まってしまった。

「キョン、俺、嬉しい」

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