彼女を10日でオトします
 琴実さんは、隣のクラスのヒデさんとやらを迎えに行くといって、そそくさと教室を出て行ってしまった。

 「みんなで食べる」という戸部たすくの思いつき(もしかしたら計画的?)を断るタイミングを逃してしまった私は、戸部たすくと二人で保健室に行くハメに。

「はあ……」

 無意識のうちにこぼれた溜め息。
 お昼ぐらい、静かに食べさせてほしいわ。

「キョン、どうしたの?」

 隣を歩く戸部たすくが腰を屈めて私の顔をのぞき込む。
 
 顔が近いわよ。

「どうしたもこうしたも、戸――」

「ああ!!」と戸部たすく。

 『戸部さんが』と言おうとした瞬間、素っ頓狂な声に遮られた。
 この人、人の言葉を遮るのが好きよね。

 戸部たすくは、私に顔を寄せたまま、

「言い忘れてたけど、次、俺のこと苗字で呼んだら、その場ではぐむぐ攻撃だから、ね?」

と、にっこり。いや、にんまり、の方が正しいわね。

「その、『はぐむぐ』ってなんなのよ」

 私の質問に戸部たすくは、肩をすくめる。いちいちアクションがアメリカンナイズされているのは、私をイライラさせたいからなのかしら。

「ぎゅっとして、ちゅーに決まってるじゃない」

 決まってるじゃない、ってさも、当たり前のように言ってるけど、それって常識なの? 『はぐむぐ』。 

 それにしても、『はぐむぐ』……恐ろしいことこの上ないわ。

 うぅ。想像しただけで、鳥肌が!

「キョン、寒いの? 俺があっためてあげよっか?」

 いいえ、こちらこそ、ひっぱたいて差し上げましょうか?
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