今日、彼に会いに行く
もしかしたら彼と会う約束ができて、うきうきしているせいかもしれない。
街をぶらぶらしながら可愛い服を見つけ、それを買って着替えた。
彼に会えるのならば、最高に可愛い自分になっていたい。
5時過ぎ、待ち合わせの広島駅に急ぐ。
言われた場所には背の高い、スーツに眼鏡の男が立っていた。
「咲夜、さん?」
男の首が横にこてんと倒れる。
そういうのは非常に……可愛い。
「はい。
白池さん、だよね?」
「よかったー、合ってたー!」
ぱーっと男――白池さんの顔が輝く。
「もう、間違ったらどうしようってドキドキしたー」
にこにこ笑っている彼は大型犬を彷彿させた。
いや、ツイートから可愛い人なんだろうな、とは想像していた。
でも長身黒縁眼鏡の男の、こんなに可愛いしぐさは……破壊力が凄まじい。
「あ、あんまり時間ないもんね。
スタバでもいい?」
「うん」
彼と並んで歩き出す。
歩く速度は私にあわせてくれた。
「おっと」
人にぶつかりそうになると、さりげなくガードしてくれる。
彼なりの優しさなんだろうけど、……いいの?
彼女以外の人間にそんなことをして。
ますます好きになっちゃうよ。
たどり着いたスタバで飲み物を頼み、空いた席に座る。
「改めまして。
白池です」
「咲夜です」
眼鏡越しに目のあった彼が、はにかむように笑う。
その笑顔に心臓はドキドキしっぱなしだった。
「なんかこうやって会うの、不思議な感じがするね」
「そう、だね」
あんなに会いたかったのに、いざ会うとなにを話していいのかわからない。
彼も間を埋めるようにコーヒーを口に運んだ。
「そういえば。
プロポーズはどうなったの?」
「聞いてよ!
俺さ、……」
彼は楽しそうにプロポーズの計画を話しだした。
きっと、誰かに聞いてほしかったのだろう。
……ただ。
人選は完全に間違っているが。
彼の話す、素敵な計画の相手は私じゃない。
それが私の心を真っ黒に塗りつぶしていく。
「彼女、喜ぶんじゃないかな」
「ほんと!?
咲夜さんにそう言ってもらえて、自信がついたよ。
ありがとう」
笑顔がひきつらないように気を使う。
そんな私の気など知らず、彼は嬉しそうににこにこ笑っていた。
「あのさ」
「なに?」
「彼女のどこがいいの?」
「えっとねー」
彼の、のろけ話は永遠続いていく。
でも、幸せそうに話している彼を見ていたら、なんだか全てがどうでもよくなってきた。
「そんなに彼女がいいんだー」
「うん」
これ以上ないくらい、幸せそうな顔で彼が笑った。
悔しいけど、きっと私じゃ彼をこんな顔にできない。
完全に敗北だ。
「そう。
じゃあ、彼女とお幸せにね」
「ありがとう」
彼と別れ、新幹線乗り場へ向かう。
売店でビールと穴子弁当を買った。
「あーあ。
完全に失恋」
プシュッ、開けたビールの苦味を胃に流し込む。
「でも、仕方ないよね。
あんな顔して笑われちゃ」
今日、彼に会いに行ってよかった。
あの笑顔が見られたから。
ネット越しじゃきっと、わからなかった。
「私も素敵な彼、見つけるんだー」
私を、彼のような笑顔にしてくれる彼氏を。
――私が、彼のような笑顔にできる彼氏を。
そしてそんな彼氏ができたら、また彼に会いに行こう。
私の彼氏も、こんなに素敵でしょ、って。
《終》
街をぶらぶらしながら可愛い服を見つけ、それを買って着替えた。
彼に会えるのならば、最高に可愛い自分になっていたい。
5時過ぎ、待ち合わせの広島駅に急ぐ。
言われた場所には背の高い、スーツに眼鏡の男が立っていた。
「咲夜、さん?」
男の首が横にこてんと倒れる。
そういうのは非常に……可愛い。
「はい。
白池さん、だよね?」
「よかったー、合ってたー!」
ぱーっと男――白池さんの顔が輝く。
「もう、間違ったらどうしようってドキドキしたー」
にこにこ笑っている彼は大型犬を彷彿させた。
いや、ツイートから可愛い人なんだろうな、とは想像していた。
でも長身黒縁眼鏡の男の、こんなに可愛いしぐさは……破壊力が凄まじい。
「あ、あんまり時間ないもんね。
スタバでもいい?」
「うん」
彼と並んで歩き出す。
歩く速度は私にあわせてくれた。
「おっと」
人にぶつかりそうになると、さりげなくガードしてくれる。
彼なりの優しさなんだろうけど、……いいの?
彼女以外の人間にそんなことをして。
ますます好きになっちゃうよ。
たどり着いたスタバで飲み物を頼み、空いた席に座る。
「改めまして。
白池です」
「咲夜です」
眼鏡越しに目のあった彼が、はにかむように笑う。
その笑顔に心臓はドキドキしっぱなしだった。
「なんかこうやって会うの、不思議な感じがするね」
「そう、だね」
あんなに会いたかったのに、いざ会うとなにを話していいのかわからない。
彼も間を埋めるようにコーヒーを口に運んだ。
「そういえば。
プロポーズはどうなったの?」
「聞いてよ!
俺さ、……」
彼は楽しそうにプロポーズの計画を話しだした。
きっと、誰かに聞いてほしかったのだろう。
……ただ。
人選は完全に間違っているが。
彼の話す、素敵な計画の相手は私じゃない。
それが私の心を真っ黒に塗りつぶしていく。
「彼女、喜ぶんじゃないかな」
「ほんと!?
咲夜さんにそう言ってもらえて、自信がついたよ。
ありがとう」
笑顔がひきつらないように気を使う。
そんな私の気など知らず、彼は嬉しそうににこにこ笑っていた。
「あのさ」
「なに?」
「彼女のどこがいいの?」
「えっとねー」
彼の、のろけ話は永遠続いていく。
でも、幸せそうに話している彼を見ていたら、なんだか全てがどうでもよくなってきた。
「そんなに彼女がいいんだー」
「うん」
これ以上ないくらい、幸せそうな顔で彼が笑った。
悔しいけど、きっと私じゃ彼をこんな顔にできない。
完全に敗北だ。
「そう。
じゃあ、彼女とお幸せにね」
「ありがとう」
彼と別れ、新幹線乗り場へ向かう。
売店でビールと穴子弁当を買った。
「あーあ。
完全に失恋」
プシュッ、開けたビールの苦味を胃に流し込む。
「でも、仕方ないよね。
あんな顔して笑われちゃ」
今日、彼に会いに行ってよかった。
あの笑顔が見られたから。
ネット越しじゃきっと、わからなかった。
「私も素敵な彼、見つけるんだー」
私を、彼のような笑顔にしてくれる彼氏を。
――私が、彼のような笑顔にできる彼氏を。
そしてそんな彼氏ができたら、また彼に会いに行こう。
私の彼氏も、こんなに素敵でしょ、って。
《終》