先輩、俺を見てください
でも、みんなが楽しんでくれるのならと亜美は優しく笑う。亜美にとっても、最後の体育祭だ。忘れないような思い出にしたい。

コンコンコン、と生徒会室が控えめにノックされる。ノックの仕方でもう誰か亜美はわかった。

「どうぞ!」

明るい声でそう亜美が言うと、「失礼します」と言って男子生徒が入って来た。

かっこいいというよりは、かわいいという方が正しい顔立ちの男子だ。髪の毛はふわふわしていて、背も男子にしては低い。女装をすれば、百パーセント女子に見られるだろう。

「先輩、俺の顔に何かついてます?」

小野優馬(おのゆうま)は、じっと見つめる亜美に訊ねた。亜美は「何でもないよ!」と言って椅子に再び座る。休憩時間は終わりだ。

優馬は生徒会メンバーで書記をしている。一年生だ。優馬の字を見て亜美が最初に言った一言は、「字、すごく上手だね」だった。

亜美には二つ年上の兄がいるが、字がとても汚い。まるでミミズがノートの上を這ったかのような謎の字を書く。
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