きみが泣いたら、愛してあげる。
01.オトナシンデレラ

01.オトナシンデレラ



○オフィスビル前の広場(夜)

表情の見えないイケメンが、かがんで話しかけてくれる。
ふわりとセットされた黒髪に高身長、私服。


男「ーーお姉さん、大丈夫?」


ベンチに座っているモカブラウンのゆるパーマの髪型の女の子(大人っぽいオフィスカジュアルの服)が驚いたように見上げる。



モノローグ(もういい大人なんだから
裸足のまま坂道を駆け出したり わんわん泣いて何かを欲しがったり
そんな子供みたいな恋、しないと思ってたよ__)




『きみが泣いたら、愛してあげる』






○オフィスビルの前の広場(夜)

ベンチに座ってスマホで時間を確認する主人公(片山 杏花)。時間は21:20。ビルの入り口を見て、誰もいないことにため息をついてから近くにいた野良猫を見つけて少し微笑んで写真を撮る。

あっ、と顔を上げて人影の見えたビルの入り口を見ると、短髪の長身男(西田 大輔)がふわふわした可愛い女の子と手を繋いで出てきたところだった。

驚いたように目を見張る杏花。



杏花「大輔…?」


大輔は驚いたように繋いでいた手を振り払う。


大輔「あ…これは」
杏花「…浮気、してたの?」


ムッとしたように眉をひそめる大輔。
心配そうに大輔を見つめる彼女の手は大輔の腕をそっと掴んでいる。




大輔「…悪い、この子のことが好きになった」

杏花「…」
大輔「別れてくれ」
杏花「…わかった、さよなら」


泣かずに、強い目でそう告げる杏花と不満げな大輔。


大輔「いつもそうだよな。杏花は俺がいなくても平気なんだろ」

杏花「え?」

大輔「俺のこと、必要としてないんだろうなってずっと思ってたよ。1人で生きていけそうだもんな」

杏花「…」
大輔「…今までありがとう」



オフィス街の中を去っていく大輔と彼女の背中。いいの?と聞く彼女と頷く大輔。
それを見送って、ため息をついてベンチに座って月を見上げる杏花。今日は三日月。



モノローグ(片山 杏花(かたやま きょうか)、26歳。学生時代からなんとなく付き合って、きっとそのまま結婚するんだろうと思っていた彼氏に、振られた。)




首元につけた華奢なネックレスをちらりと見て、唇を噛みしめる杏花。
と、そこに影が落ちて、驚いたように顔を上げる。



男「__お姉さん、大丈夫?」


整った顔立ちの、黒髪をふわっとセットした少し幼いけれど格好いい男性。(永瀬 圭)



杏花「え…」

圭「…ごめんね、全部見ちゃった。
よかったら俺と飲みに行きません?」


優しく微笑む圭と、少し考えて頷く杏花。


モノローグ(綺麗な人…。 もう、今は飲みたい気分だし、今日くらいいいよね…どうにでもなれ…)




○雰囲気のあるバー


隣に並んで座りお酒を飲む2人。


圭「俺、永瀬 圭っていいます」
杏花「あ…片山 杏花です」

圭「さっきの人は、彼氏?」
杏花「もう彼氏じゃないけどね」

圭「このままでいいの?」
杏花「…いずれこの人と結婚するんだろうなって、思ってた」



モノローグ(こんなことどうして初対面の男の人に話してるんだろう。…酔ってるせいなのか、振られたせいなのか、分からないけどつい喋っちゃうなぁ)



杏花「アイツ…大輔とは大学生の時から付き合ってたから、もう5年くらいで。お互い仕事が忙しくてあまり会えなかったし、もうドキドキすることもなかったけど、こんな風に終わるなんて思ってなかったなぁ…」

圭「そっか…」



23:00と表示されるスマホのディスプレイ。酔った杏花とあまり酔っていない圭。


杏花「1人で生きていけそうってなんだよー、守ってあげたくなるような女の子っぽい彼女つくっちゃってさー」

圭「ちょっと、飲みすぎじゃない?」

杏花「今日くらいいいの!飲まなきゃやってらんない!」


グラスに残ったお酒をぐいっと飲み干す杏花と眉を下げて笑う圭。


圭「いやー、見る目ないよね、元彼」
杏花「なによ」

圭「だってこんなに可愛いのに」


そっと杏花の手に重なる、圭の大きくて少し冷たい手。思わずドキッとしてしまう杏花。


杏花(…そういえば大輔と最後に手繋いだの、いつだっけ)



圭「強がりなところが可愛いって、どうして分からないかな」



綺麗な笑顔で杏花の顔を覗き込む圭。赤くなる杏花。圭は杏花の指を絡め取って色っぽい表情で優しく握る。



圭「…ねえ、この後どうする?
もう一軒行くと終電危なそうだけど」


スマホのディスプレイには23:30の文字。杏花も圭の手を握り返して聞く。


杏花「…明日、朝早い、けど」
圭「けど?」

杏花「圭くん…は、大丈夫なの?まだ月曜日だけどそんなに遅くなっても」

圭「ああ、俺は明日3限からだから…」



杏花モノローグ(そっか、3限……。…3限!?)



驚いて目を見開く杏花と、キョトンとしている圭。


モノローグ(3限って…なにその遥か昔に聞いた単語…)



杏花「け、圭くんってまさか……
大学生……?」


圭「そうだよ、言ってなかったっけ?」



にっこり笑ってみせる圭。青ざめる杏花。



杏花(う、嘘でしょ!?じゃあ私、大学生男子を時間まで失恋の憂さ晴らしに付き合わせてたってこと!?犯罪!?犯罪なの!?通報されちゃう!?)


圭「あ、心配しなくても大丈夫だよ。20歳だから未成年飲酒じゃないし…」

杏花「そ、それは当たり前よ!ていうかそんな問題じゃないよ!」



慌てて伝票を持って立ち上がり、帰り支度を始める杏花。




杏花「本当にごめん!大学生だって知らなくて…その、お金は払うので今日のことは忘れて…ごめんね、さよなら!」



バタバタとお会計をして帰っていく杏花。取り残されたバーでふっと口角を上げ「……可愛い」と呟く圭。




○会社の給湯室(次の日の朝)


会社の給湯室でお茶を入れながら頭を抱える杏花。そこに茶髪ボブの女の子(同僚)が入ってくる。


杏花(うう、頭痛い…昨日は飲みすぎた。
ていうか色んなことがありすぎた。彼氏の浮気を見ちゃって振られて、飲みに行ったイケメンが大学生だったなんて…昨日の私を殴りたい…
だってすごい大人っぽくて、全然学生に見えなかったんだもん…若そうだからちょっとくらいは年下かなとは思ったけど…)


同僚「どうしたのー?そんな世界の終わりみたいな顔して」

杏花「ねえ〜〜!ちょっと聞いてよ!世界の終わりみたいにいろんなことがあったの〜…」



話し始めようとする杏花の言葉を遮って別の同僚が声をかける。


同僚2「あ、片山さんいた!なんか社長が呼んでるってみんな探してたよ!」


杏花(社長…!?)
同僚1「ちょっと…あんた何やらかしたのよ?」
杏花「な、なにもしてな…」


杏花(ま、まさか昨日大学生男子を飲みに付き合わせたのがバレた!?それも手なんか握られてまんざらでもなくなってたのがバレた!?通報されたの!?未成年淫行条例!?私どうなっちゃうの…!?)




○社長室


怯えながら「し、失礼します…」と社長室に入る杏花。と、そこにいたのは優しそうな社長と、その隣に立っている圭。


杏花(昨日の圭くん!?ええ!?やっぱりほんとうに通報されちゃったの〜!?)

杏花「き、昨日はすみませ…」


勢いよく頭を下げる杏花の言葉に被せるように


社長「片山杏花くん、私の息子と結婚する気はないかね?」


杏花「……はい?」


社長「この子、私の息子の 永瀬圭っていうんだけどね。親バカかもしれないけど顔もいいし頭も切れるし努力家だし、今は大学生だけど一人息子だから次期社長だ。
それがどうしても君と結婚したいって頼んできてねー。もしよかったら考えてやってくれないか。こんなの親の頼むことでは無いんだろうけど、こんな風に頼られるのは初めてでね…」



杏花(い、意味がわからない…情報量が多くてついていけない…。
結婚て、いきなり結婚て…
しかも、この子、うちの社長の息子だったの〜〜!?そんなことってある!?
確かに言われてみれば社長の名前も永瀬だったし、顔も似てると言われれば似てるけど!そんな偶然ってあり!?)



圭「お姉さん、俺と結婚してくれませんか?」



にっこりと綺麗な笑顔を浮かべて近づいてくる圭に、あとずさる杏花。


杏花「じ、冗談でしょ……」


圭「本気に決まってるでしょ」



__もういい大人なんだから
1人でも生きていけそう」と彼氏に振られた次の日に、社長の息子にプロポーズをされてしまったり
そんなドラマみたいな恋、しないと思ってたよ__




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