きみが泣いたら、愛してあげる。
11.涙を流すほどコドモじゃない

11.涙を流すほどコドモじゃない


○杏花の家の玄関に並んだ指輪のケースと赤いバラの花


モノローグ(もらったプレゼントは玄関に飾ってある。毎朝これを見るたびに、どうしたらいいのか迷って、指輪を見てはだめだって首を振って、それから少し、切なくなる。)



○社長室(昼休み)


杏花「失礼します」

杏花(社長から急に来てほしいって言われたけど、なんだろう。怖い話だったらどうしよう。それとも圭くんのことかな…)


社長「いやあ、すまないね急に。
実は圭のUSBを間違えて持ってきてしまってね。もしよかったらなんだが、圭の大学に届けてやってくれないかと思って」

杏花「え…」

社長「圭も君が来たほうが喜ぶだろう」

杏花「そんなことないと思いますけど…わかりました」



○圭の大学(昼休み)


広いキャンパスを見回して、(ここで圭くんは勉強してるんだなぁ)と思う。
圭に電話しようとすると、男子の集団に声を掛けられる。



男子生徒1「あれ、もしかして圭の知り合いですか?」
男子生徒2「あ、本当だ。写真の通り」

杏花「え…はい、そうです。お友達?」

男子生徒1「圭、さっきまで待ってたんですけど教務課に呼ばれて行っちゃったんすよ。たぶんすぐ戻ってくると思うんですけど」

男子生徒2「『杏花さん』ですよね?圭からいつも話聞いてます。
USB届けに来てくれるって、すげえ嬉しそうにしてて」


なんだか照れ臭くなる杏花。
友達に私のこと話してるんだ、とドキドキしてしまう。



杏花「教務課に呼ばれてるの?」

男子生徒1「あー、たぶん留学の件だと思いますよ」
男子生徒2「すごいよなぁ、1年だもんな」


杏花「留学…?」



男子生徒1「あれ…え、聞いてなかったですか?
やべ、俺なんかまずいこと言ったかな」

杏花「いや…全然、平気だよ。圭くん留学するの?すごいね、さすが!
…あ、私仕事が残ってるからこのUSB渡しておいてもらってもいいかな?」


男子生徒2「え、会っていかないんすか?」

杏花「私まだ仕事中だもん」

男子生徒2「そっか…わかりました」

杏花「よろしくね」



キャンパスを出ようとすると、この前猫カフェから出たときに会った圭の元カノ・実晴を見かける。





『そっか。そうだよね。圭、好きな人がいるって言ってたもんね』
『私と別れた時そう言ってたよね。諦めたの?もう他の人に手出してるの?』


あの時の実晴の言葉を思い出す。


『あー、たぶん留学の件だと思いますよ』
『すごいよなぁ、1年だもんな』

さっきの2人の言葉を思い出す。



杏花モノローグ(大丈夫。

大丈夫。


だってまだ本気になってない。

本気になっちゃいけないって、わかってたもの。

だから、だから、)



ずんずんと早足でキャンパスを出て歩く。
表情は紙で隠れて見えない。


杏花モノローグ(圭くん、私はね。

このくらいのことで泣いたりできない、感情のままに動くこともできないくらいには

大人なんだよ)



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