きみが泣いたら、愛してあげる。
16.サヨナラは大人の顔で

16.サヨナラは大人の顔で


○圭とデートしたときに来た夜景の見える丘(夜)



圭「ごめん、来られるの夜になっちゃって」

杏花「ううん。こちらこそ急に呼び出してごめんね」



どこか切なそうな表情の圭。



杏花「ごめんね。私、圭くんとは付き合えない」


圭「…なんで?」


杏花「大学生の圭くんにはこれからいろんな出会いがあって、そんなあなたと一年も遠距離なんて現実的じゃない。それでも私は留学を止めて圭くんの可能性を狭めたくないの」



傷ついた顔をする圭。
それを見て心が痛む杏花。



圭「でも…杏花さん、俺のこと好きでしょ」



杏花「好きだよ…でも、裸足のまま走って、欲しいって叫んで、追いかけられるほど子供じゃないの」

圭「なんだよ、いつも大人ぶって」

杏花「…」


視線を落とす杏花を見て、分かった、と泣きそうな顔をする圭。



圭「でも俺は杏花さんのこと、裸足で走って追いかけたいくらい本気で好きだったよ」




こうして圭を振ってしまう杏花。


圭と出会った時のこと。
はじめて飲みに行った日のこと。
猫カフェでデートしたときのこと。
風邪ひいた圭を看病したときのこと。
昔から好きだったことを伝えてくれた日のこと、誕生日を祝ってくれたこと、頬をそっと撫でる癖。

圭との短い間の、だけれどあまりにもたくさんの思い出が頭をめぐる。



家に帰る途中、綺麗な夜の街が涙でぼやける。


杏花(これでよかった。これでよかったはずなのに…なんで…)


杏花「あの日ふたりで見た夜景のほうが、100倍綺麗だった…」



綺麗な夜景を見ながらぽつりと呟く杏花。





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