きみが泣いたら、愛してあげる。
02.甘い、ネオン
02.アマイ、ネオン
○社長室(朝)
全力で社長たちに頭を下げる杏花。
杏花「先日は息子さんと飲みに行ってしまって本当に申し訳ありません!!
でもしかも結婚なんてそんな滅相も無いです…!」
社長「私は全然いいんだけどねー。片山くん、美人だし仕事もできるし。まあ、こればっかりは片方の意思だけじゃどうにもならないからねえ。圭が頑張るしかないな」
杏花「いやいや…私もう26歳ですよ!?息子さん20歳ですよね!?」
圭「成人してるんだからそんなに変わらないだろ」
杏花「変わるわよ…アラサーになった女がどれだけ微妙な年齢か若者にはわからないと思うけど…」
圭「だって杏花さん綺麗じゃん」
杏花(危ない…ドキッとしてしまった…綺麗な顔のせいですぐ流されそうになってしまう…)
杏花「とにかくごめんなさい!社長もお騒がせして申し訳ありませんでした!失礼します!」
勢いよく頭を下げて社長室を出る杏花と、「私はいつでも結婚の報告待ってるからね〜」と笑う社長。
「あ、おい!」と慌てて追いかけてくる圭。
○オフィスの廊下
追いかけてくる圭と、仕方なく立ち止まって振り返る杏花。
圭「杏花さん!」
杏花「…」
圭「俺なら杏花さんを幸せにできるよ」
杏花「…昨日はごめんなさい。振られてショックだったからといって知らない男と飲みに行くなんて迂闊だったし、酔って思わせぶりなことをしたことも謝るわ。
だけど昨日会ったばかりの私に結婚したいなんて言われても困るし、圭くんが私を好きになったのだとしたらそれは一時の気の迷いよ。結婚なんて一生を懸けた選択、何も知らない私なんかに簡単に使わないほうがいい」
モノローグ(年下の男の子が年上の女に憧れを抱くなんてよくあること…)
眉を下げて、悲しそうな顔をする圭に、少し心が痛む杏花。
圭「…俺、杏花さんが思ってるよりあなたのこと知ってるよ」
杏花「え…?」
(だって私たちは昨日が初対面…)
圭「杏花さんが父の会社の社員だってことも、知ってた」
杏花「なんで…」
圭「それは杏花さんが俺を好きになってから教えてあげる」
にっこりと笑う圭、眉をしかめる杏花。
杏花「残念だけどもう会うつもりはないわ」
背を向ける杏花に、「いいの?」と声をかける圭。不思議そうな顔で振り返る杏花。
圭の手元には華奢なネックレス。
杏花「それ…大輔に貰った…」
圭「昨日酔った杏花さんが「もういらない!あげる!」ってくれたんだけど…いるでしょ?」
見透かしたようににっこり笑う圭。悔しそうな顔の杏花。
杏花「うっ……返して、ください」
(全然覚えてない…大学生の、しかも社長の息子の前でそんなに酔っちゃうなんて最悪…)
圭「これ、返して欲しかったら今度また飲みに行こうよ」
杏花「い、行かない…」
圭「じゃあ捨てちゃおっかな〜」
杏花「っ……意外と性格悪いね」
圭「まあ、あなたを手に入れるために必死だからね」
杏花(綺麗な顔で笑っちゃって…)
圭「…で、行くの?行かないの?」
杏花「…行ったら返してくれるの?」
圭「もちろん」
杏花「じゃあ今日は残業だから…明日なら」
パァッと目を輝かせて喜ぶ圭に、少し可愛いと思ってドキッとしてしまう杏花。
圭「やった、じゃあ明日迎えに来るわ」
杏花「う、うん…」
嬉しそうに背を向けて、会社を出て行く圭。 (早まったかな…)と頭を抱える杏花。
○会社の前(次の日・夜)
杏花(これはデートじゃない…ネックレスを返してもらうだけ…!)
そう言い聞かせながらオフィスを出てくる杏花。スマホから顔を上げた圭は杏花を見て、優しい顔で笑う。思わずドキッとしてしまう杏花。
圭「お疲れ様」
杏花「お、お疲れ様…」
私服の圭が格好良くて思わず目をそらしてしまう杏花と、口角を上げて近づいてくる圭。
圭「なに、緊張してんの?」
杏花「そんなわけ、ないでしょ」
圭「じゃあ何で赤くなったの?」
杏花「っ…生意気」
○個室居酒屋(夜)
向かい合わせで座る2人。少し酔ってきた杏花と、飲んではいるけどお酒に強いのであまり変わらない圭。
杏花「まあ、お互いに冷めてきてるなって自覚はあったんだけど…それでももう長い間付き合ってるし、このまま結婚するんだろうって、思ってたのになぁ…」
圭「ふーん、そっか」
杏花(圭くん、この前も思ったけどちゃんと踏み込み過ぎずに話聞いてくれるから、つい話しちゃうんだよなぁ…)
杏花「わかってるんだよ、あんな風に振られた次の日も泣かないで普通に仕事ができて、そんな可愛げないところがダメなんだって」
杏花(そういえば付き合ってる時も、会いたいとか好きとか言ったことなかったなぁ)
杏花「私がもっと可愛い女の子だったらなぁ…」
杏花(1人でも生きていけそうなんて、きっとその通りだけど。…新しい彼女は、1人じゃ生きていけなさそうな、可愛い女の子だったなぁ」
酔いが回って1人で喋って、頭を下げて落ち込む杏花。その頭をぽんと撫でる圭。余裕たっぷりの優しい顔で杏花の顔を覗き込む。
圭「杏花さんが1人で生きていけそうなんて、あんたの彼氏見る目ないね」
驚いて少し顔を上げた杏花の頬を撫でる圭。
圭「全然1人じゃ生きていけなさそうなのに」
キュン、と胸が騒いで、俯く杏花。
杏花(だめ…!なにドキドキしてるの!?圭くんとは何もないし、そもそも彼氏に振られてすぐ他の人にドキドキするなんて最低…)
杏花「ほ、ほら!早くネックレス返して!」
圭「…まあ、約束だもんね。はい」
渋々ネックレスを杏花に渡す圭。杏花はネックレスを無造作にジャケットのポケットにつっこんで、バタバタと帰り支度を始める。
圭「待って、送るよ」
杏花「いらない!明日も大学でしょ、子供は早く帰って寝なさい」
子供扱いする杏花に、ムッとして眉をひそめる圭。
圭「なめんな」
ぐいっと手を引いて、顔を近づける圭。あと1センチくらいで唇が触れそうな距離で、必死に目をそらす杏花。圭は杏花の目をまっすぐに見つめる。
圭「…また、会ってくれる?」
杏花(___吸い込まれるみたいに、頷いてしまった)
満足げに笑った圭は、「また明日ね」と杏花の頬を優しく撫でた。くすぐったくてビクッとする杏花。
杏花(…大輔はいつも、別れ際に頭を撫でてくれてたなぁ。…どうしよう、なんで、今の方がドキドキしてるんだろう。だめだめ、あの子はだめだって!)
モノローグ(まだ大丈夫、これは恋じゃないって
言い聞かせて帰った、キラキラのネオン街)