きみが泣いたら、愛してあげる。
03.泣かせたい恋情

03.泣かせたい恋情



○居酒屋(夜)


同じ会社(違う部署)の友達・ユリナと向かい合って飲みながら話す杏花。


ユリナ「ちょっと、何でそんな面白いことになってるのよ!?」

杏花「全然面白くないよ!こっちは大変だったんだから!」

ユリナ「いいじゃない、次期社長で御曹司の何が不満なのよ。しかもイケメンなんでしょ?」

杏花「絶対からかってるだけだよ。だってあの夜偶然会って飲みに行っただけで、どうして結婚なんて話になるんだか…」

ユリナ「うーん、杏花のことがめちゃくちゃタイプだったとか…?」

杏花「それはないでしょ…」



うーん、と考え込んでから「それにしても」とビールのグラスをテーブルに置くユリナ。



ユリナ「大輔はなんなの?最低だな!」

杏花「うーん、でももうお互いに冷めてたのかなって感じもする。付き合ってから長いしそれが普通で、でもいつか結婚するんだろうなって、思ってはいたけど」

ユリナ「まあ、長年付き合ってればドキドキは無くなるし、改めて愛を確認したりも照れくさいし、自然と気持ちが離れちゃうことはあるよね…」

杏花「そうだよね…どうせ伝わってるだろうと思って、好きだとか言わなくなったもんなぁ」


杏花(あの頃は大輔のこと、ちゃんと好きだったはずなのに…)




○回想・大学時代・学校の帰り道


キャンパスの門を通り、んー、と伸びをする杏花。並んで歩く大輔。


杏花「ゼミの発表終わってよかったー!お疲れ様!大輔が発表のペアで助かったよ」

大輔「俺も杏花がペアでよかったわ。教授にも褒められたし」

杏花「そうだね、あれは私のおかげだね」

大輔「いやいや、俺のおかげだろ」



2人で顔を見合わせて笑う。と、立ち止まった大輔に杏花は不思議そうな顔で振り返る。


杏花「大輔?どうしたの?」

大輔「…なあ、杏花」



(_____あのなんとも言えない緊張感を、思い出したら今でも少しだけドキドキした。)



ごくり、と唾を飲む大輔。風が2人の髪を揺らす。



大輔「……俺たち、付き合わねえ?」



赤い顔を隠すように俯く大輔。静かに頷く杏花。



杏花「____いいよ。付き合おう」



モノローグ(その日はなんだか照れくさくて、帰り道何も話せなかった。だけど歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれる彼の横顔が、やけに眩しかったのを覚えている。)



○回想(大学時代)


2人で食堂のご飯を食べたり、手を繋いだり、卒業式で2人で写真を撮ったり、キスをしたり、社会人になってから家でご飯を作って待っていたりした。


モノローグ(照れ屋で、なかなか好きだなんて言ってくれなかったけれど、不器用な優しさが好きだった。)


○回想(最近)


『ごめん、残業で会えない』という大輔からのメッセージ。『私も忙しいから気にしないで』という杏花の返信。忙しそうに仕事をする2人。大輔と最後に会ってから1ヶ月近く会う予定のないスケジュール帳。


モノローグ(不器用だと思っていた彼は、知らない間に他の女の子に恋をするくらいには器用になっていたらしい。)



○居酒屋(現在)



お酒のグラスから口を離して、少し落ち込んだように呟く杏花。


杏花「…可愛い女の子、だったなぁ」

ユリナ「新しい彼女?」

杏花「そう。私とは真逆の女の子らしい子だった」


杏花(大輔、本当はああいう子が好きだったのかな)


ユリナ「…もう忘れなって、そんな最低男!杏花には将来有望なイケメン大学生がいるんだから」

杏花「いや、だから圭くんは違うって…」

ユリナ「私だったら遊ばれてたとしても圭くんに行くのになー。だって今フリーなわけだし」

杏花「私だってそろそろ結婚したいもん。遊んでる場合じゃないの!」



がたん、と少し勢いよくグラスをテーブルに置く杏花。酔って顔が赤い。



杏花「そういうユリナは彼氏とどうなのよ」

ユリナ「あー、うん、こんな話の後に言いにくいんだけど…そろそろ結婚しようかって話になってはいる、かな」

杏花「結婚…そうなの!?おめでとう!早く言ってよ」

ユリナ「言えないよー、長年付き合った彼氏に振られた友達にそんなこと!」

杏花「面白がらないでくれるー?」

ユリナ「はは、ごめんごめん」

杏花「そっかぁ…ユリナも結婚するのか…」



杏花(学生時代の友達も結婚した人いっぱいいるし、ユリナも…。私はどうなるんだろう…)



杏花「もう、今日は飲む!何も考えられない!」




グイッとグラスのお酒を飲み干して、「店員さん、生ビール!」と頼む杏花。



○居酒屋・2時間後


酔っ払ってテーブルに突っ伏している杏花と、困った顔をするユリナ。


ユリナ「もう…ちょっと杏花、起きてよ」

杏花「うーん……」

ユリナ「ダメだ…誰か迎えに…そうだ」



ニヤリ、と楽しそうに笑って杏花のスマホを開くユリナ。連絡先を探して、電話をつなげて耳に当てる。



電話『もしもし、杏花さん?』

ユリナ「あ、もしもし、圭くんー?」

圭『え、誰?」

ユリナ「杏花の友達なんだけど、2人で飲んでたら杏花が潰れちゃってぇ。良かったら圭くん、迎えに来ない?」

圭『行きます、どこですか』

ユリナ「さっすがー!会社の近くの〇〇って居酒屋で待ってるね」


電話を切ってニヤニヤ笑いながら、机に突っ伏して寝ている杏花を見るユリナ。



○居酒屋(20分後)


まだ酔って机に突っ伏している杏花。
そこに少し息を切らした圭がやって来る。


ユリナ「…あ、もしかして圭くん〜!?」

圭「はじめまして、永瀬圭です」

ユリナ「えー、本当にイケメンじゃん!勿体ないなぁ、杏花は」



圭が寝ている杏花に声をかける。杏花はまだ酔って意識が曖昧。


圭「杏花さん、大丈夫?」

杏花「うーん…」

圭「潰れてますね」

ユリナ「そうなの。ごめんねわざわざ迎えに来てもらっちゃって」

圭「いえ、むしろありがとうございます」



にっこりと満足げな顔で笑う圭に、(意外と小悪魔なのか…?)と面白がるユリナ。


○夜の街中


寝てしまっている杏花を背負って歩く圭と、並んで歩くユリナ。


ユリナ「ねえ、杏花のどこが好きなの?」


その声を聞いてゆっくり目を開ける杏花。圭とユリナは杏花が目を覚ましたことに気づいていない。



圭「___泣かせたいなって」

ユリナ「えっ…どういうこと?」

圭「…あの日、初めて喋った日。泣きそうな顔してるのに無理して笑って、あれから元彼の話とかしても強がってて。

だから俺の前で、泣いて欲しいって思いました」


ユリナ「ふーん…なるほどね。格好いいじゃん、圭くん。適当な気持ちだったらどうしようかと思ってたけどそういうわけじゃないみたいだし」

圭「はは、ありがとうございます」




ニヤリと笑うユリナと、余裕の笑みの圭。実は起きていた杏花が圭の背中で赤面する。圭とユリナは杏花が寝ていると思っている。


杏花(っ、生意気…)


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