きみが泣いたら、愛してあげる。
05.100万ドルの夜景なんてドラマみたいだ
05.100万ドルの夜景なんて、ドラマみたいだ。
○街中(夕方)
圭「実晴…」
驚いたような、少し気まずそうな顔をする圭。
ミルクティー色のふわふわロングヘアに大きな瞳、可愛らしい実晴が目を丸くして杏花を見る。
実晴「…新しい彼女?」
圭「いや、彼女ではないけど…」
実晴「そっか。そうだよね。圭、好きな人がいるって言ってたもんね」
圭「…」
実晴「私と別れた時そう言ってたよね。諦めたの?もう他の人に手出してるの?」
怒ったように、だけど冷静に攻める実晴に、圭は決まりが悪そうな顔をする。
杏花は何かを察したように眉を下げる。
杏花「…私たちはそういうのじゃないよ。私が落ち込んでたから励ましてくれただけ。付き合ってるとかじゃないわ」
実晴はちらり、と杏花を見て、
実晴「そうですよね。こんな年の差のある人に恋なんて、しないですよね」
少しトゲのある言い方に、杏花の胸は少し痛む。
杏花(そう、こんな年の差のある恋なんてしない。わかってるのにー…
どうしてショック、受けてるんだろう)
圭「おい実晴、余計なこと言うな。行こう、杏花さん」
慌てたように杏花の手を引き、実晴から離れる圭。
杏花「ちょっと、圭くん…」
圭「…ごめん、急に引っ張ったりして。
……最後に一箇所だけ付き合って」
杏花「いいけど…」
〇丘の上(夜)
高い位置にある丘からは、綺麗な夜景が見える。感動する杏花。
杏花「すごい!こんなところあったんだ」
圭「うん、綺麗でしょ」
宝石箱をひっくり返したみたいな綺麗な光たちに見とれる杏花。そんな杏花を目を細めて見つめる圭。
杏花「……圭くん、好きな人いるんだね」
圭「…いや、あれは」
杏花「よかった」
驚いたように目を見開く圭。それから少し傷付いたように目をそらす。杏花は笑顔のまま続ける。
杏花「その人と上手くいくといいね。圭くんも何かあったら相談して。今日のお礼に私も励ましてあげるから」
圭「…うまく、いってほしい?」
杏花「当たり前でしょ。圭くんはこんな私を気にかけてくれるくらい優しい人だから、きっと大丈夫だよ」
杏花(圭くんが、私に本気なはずない。
それに、圭くんが前の彼女と別れたのは半年前だって、前に言っていた。私と圭くんが知り合ったのはつい最近だから、その好きな人が私だって可能性もない。
……よかった。よかったはず、なんだけどなぁ)
しばらく2人きりで、綺麗な夜景を見つめる。
杏花の手に触れようとした圭の手が、戸惑ったように空を切る。
圭「……なあ」
杏花「うん?」
圭「…本当に、俺と結婚したくないの?」
なんだか泣きそうな顔で、眉を下げて、驚くほど綺麗な顔で杏花を見つめる圭。
杏花は思わず言葉に詰まる。
杏花「当たり前…でしょ。つい最近知り合った人と結婚、なんて。そもそも圭くんはまだ大学生で…私は、26歳だし」
圭「すぐに結婚じゃなくてもいいよ。婚約だけでも、付き合うだけでもいいよ。俺の家からして、婚約者を早く決めることはおかしいことじゃないだろ」
杏花「そう…かも、しれないけど」
圭「悩むのは年齢のことだけ?」
杏花「それだけじゃ…」
杏花(どうしよう、何で、こんな顔されたら拒否できない…。何で私、こんなにドキドキしてるの…?)
必死に目をそらす杏花。その様子を見て、ぐい、と杏花の腰を引き寄せる圭。カアッと赤くなる杏花。
圭「なあ……子ども扱いすんな」
切なげな瞳。下がった眉。近付く顔。腰に回った力強い腕。杏花はドキドキしてしまっている自分に戸惑う。
圭「俺のこと好きになってよ」
そっと冷たい指が杏花の唇をなぞる。
びく、と肩を揺らす杏花。