100年後も、君の代わりになんてなれない
チャイムを鳴らすと、すぐに聞きなれた声がインターホン越しに聞こえた。
しばらく会っていなかったせいか、少し緊張する。ガチャリと扉が開き、彼女のお母さんが顔を出した。
「あらまあ! 久しぶりねぇ、あの子に会いに来てくれたの?」
「お久しぶりです。はい、あの、デビュー作を一番に読んでもらいたくて」
「ああ、ついに⁉ おめでとう。きっとあの子も喜んでいるわ。さあ、入って入って」
おばさんは、優しく家に上げてくれた。
少し前までは、月命日に毎回お邪魔していたのだけれど、ここ最近忙しくて来ることができていなかった。
廊下を少し歩いた先にある仏間の戸を、おばさんが開ける。
「どうぞ。ゆっくりお話ししてね」
おばさんは気を遣って出て行ってくれた。
おばさんがキッチンに入ったのを確認し、部屋に足を滑らせる。
十年たっても変わらない、お香とあの子の匂いが鼻腔をくすぐった。
壁一面に張られた十七年分の写真。
端の方にひっそりとたたずむ仏壇。
その前に正座をし、包んでいた本を出して供え、金色のりんを二回鳴らした。