100年後も、君の代わりになんてなれない
そんな時、あたしはまた希衣を思い出した。いつもあたしの話を、自分のことのように嬉しそうに聞いてくれる希衣。
あの子に夢はなかったのだろうか。もしあたしが希衣の代わりに死んでいたら、どうなっていたのだろうか。
そんな思いからこの物語が生まれ、見事受賞へと繋がったんだ。
あたしは、目の前の本をそっと撫でる。
「現実は全然この話みたいにうまくいかないし、希衣は幽霊になって出てきてもくれなかったね」
あたしは、笑いながら嫌味っぽくそう言った。
きっと、あたしに見聞きできないだけで、実際は目の前にいるのではないかと思う。
現実は小説(フィクション)とは違って、厳しくて。
当たり前だけど、物語上のあたしが希衣を助けに来るように、希衣はあたしの目の前に現れてはくれなかった。
「でも……希衣が現れてくれなくても、そばにいるってわかるよ。小説とは違えど、何度もあたしのことを助けてくれたもんね」
何度もあたしに夢を与えてくれた。何度も励まし、応援してくれた。それは、希衣が希衣だったから。
あたしはまた、自分の作品に影響された。
あたしは、希衣の代わりになんてなれない。
誰だって、他の誰の代わりにもなれない。
一年後だって、十年後だって、百年後だってそう。
あたしはあたしだ。
それが、「もし希衣の代わりに死んでいたら」の答えだって気づいたんだ。
「あたし、書籍化って夢を叶えたけど、これからも新しい夢を追い続けるよ。
二作目も三作目も世に出して、いつか映画化するって夢もできた。
調子に乗るなって言わないでよね。難しい夢だって、何年かかってでも絶対に叶えてやるんだから。
だから……見ていて」
合わせていた手を下ろし、ゆっくりと立ち上がる。
部屋中の写真が微笑むように暖かく、あたしの背中を押しているようだった。
戸に手をかけ、部屋を出る。
『────おめでとう。頑張って───』
背後から、そんな声が聞こえた気がした。
[完]