格上上司は初恋の味をまだ知らない。
ー数時間後ー
「………はっ!」
朝。ぼんやりとカーテンを見つめていると一気に昨晩の記憶が流れ込んできてガバッと体を起こす。
紺のベットカバーに知らない匂い。知らない部屋…ここはどこ!?!?
昨晩、部長が何か頻りに聞いてきたような気がしたけど…途切れ途切れの記憶を繋いでみてもよく分からない。
ズキズキと痛む額を押さえながらベットの上で頭を抱えていると、ガチャッと音を立てて開く扉。
「ん、沢渡おはよ。眠れた?」
「……………部長?」
「うん?」
「ここ…部長の家…ですか?」
「うん。どうした?」
「…も、もしかして、私、」
私、やってしまったのでしょうか?
意味が伝わっているのかいないのか、部屋着姿の部長はコーヒーを片手に持ったまま私の前で屈むと、顔を覗き込んで艶っぽく笑う。
髪型は勿論セットされていなくいつもよりぺたんとしてて、眼鏡もネクタイもなし。何故か色気があって直視できない。
同意も否定もしない部長。
「!」
「…熱いな。照れてんの?」
赤くなったり青くなったりする私の顔を見つめながら、温かくなった指先で頬に触れる。
ビクンと肩を震わせてそれに応えた私はどこか怯えてしまっているみたいで。
「あの…昨日の記憶が全くなくて…私、」
「ふうん?あんなに良かったのに?」
「良かった、って…え…?まさか、私……」
立て続けに''初めて''をこの人に奪われたってこと…?
信じられずに目を見開いたまま呆然と見つめていると、耐えきれないといった様子でぶはっと吹き出し笑い始めた。
クスクスと笑い声が部屋に響く。
「え…?」
「ははっ、冗談だよ。
意識がない女を俺が抱くわけ無いだろう?」
「っっ~~~~!!!!」
本っっ当ムカつく!!!!!!!
目にいっぱい涙を溜めて部長に背中を向ける。もうこんな人嫌だ。本当に怖かったのに、この人にとってはからかいの材料にしかならないんだから。