格上上司は初恋の味をまだ知らない。
25にもなって未経験で怯えてるなんて恥ずかしいし、部長の冗談なんてリアル過ぎて騙されるに決まってるじゃん。
あんな目で、声で、色気たっぷりに微笑まれたりしたらドキッとするし……そんな自分も嫌いだ。
彼が近づいてギシ、と音を立てるベット。
「沢渡、こっち向いて。」
「……やだ。」
「怒ってる?」
「…部長なんて嫌いです。」
この人に会ってからずっと何かが可笑しい。
今まであんな風に襲われるみたいなキス知らなかったのに、指も舌も絡め取られて…強引なのに、嫌な筈なのに思い返す度に胸が痛くなる。
もう1度してほしい…なんて気持ち、どこにも無いと言い切ってしまいたいのに、あの声で名前を呼ばれるとその度に胸がドキッと跳ねる。
「嫌いなんて言うな」ーーーそう背後から聞こえたけど無視した。
「相変わらず強情だな。」
「落ち着いたらすぐ帰りますから。」
「落ち着かれても困るんだけど…
この状況分かって言ってる?」
え…?
首筋から撫でるようにしてするりと服の中に入ってくる手。意味を理解した私は跳ねるようにして部長から離れる。
な、な、何をするんだこの男は…!
「なっ、な何するんですか!」
「それで逃げたつもり?可愛いな。」
相変わらずの上機嫌でにっこりと笑いながらこちらに迫って来る。笑っている筈なのにその目は獣みたいに鋭くて、バタバタと逃げ惑う私をいとも簡単にベットに押し倒してくる。
可愛い…とか、本来なら言われて嬉しい筈なのに今がピンチ過ぎてそれどころじゃない。
「沢渡って本当に警戒心ないんだな。
ただの天然?それとも煽ってる?」
「煽ってなんか…」
「……だからその顔がやらしいんだよ。
本気で抵抗してるようには見えない。」
抵抗しているだけなのにそれが駄目ならどうすればいいんだ。「やめて」と続けても一向に離れる気配がない。
顎を掴んで上を向かされると絡み合う視線。部長が触れる度に体温が上がっていくみたいで顔がどんどん火照っていく。
「うわ、顔真っ赤…」
「っ~~私とは''寝るわけない''んでしょう!?わかってるのでもう離してください!」
私は一体何を言っているんだろう。暴走した気持ちの意味が自身でも分からなかった。
赤面のまま涙を零した私に向けられる視線は相変わらず鋭い。見下ろす瞳の奥はじりじりとした欲情を映す。
「本当に''ソレ''で今まで未経験だった?
とんだ思わせぶりだな。」
「っ…部長には関係ないでしょ。」
「ふうん、そんな口の聞き方するんだな。」
もう嫌で、何か変わってしまった自分に気付くのも怖くて、傷付きたくもなくて、何度目か分からない「離して」と口を開くとその瞬間にかぶりつくようなキスが降ってきた。
何度も角度を変えて、吸い付いて、絡まって。夢に見ていた優しいキスなんかじゃない。全てを奪っていく、大人のキス。
「逃げるなよ。」
「も…やめ……っん」
それだけで全身の力が抜けてしまう私は、思わせぶりな女なのでしょうか。
慣れた手つきでぷちんとホックが外されて、もう限界だった私はーーーー
「沢渡!?」
意識が飛んだ。