格上上司は初恋の味をまだ知らない。


最近、部長の様子がおかしい。




今まで完璧だった菩薩モードが、ふとした瞬間に裏の顔を覗かせる事があるのだ。瞳の奥だけでなく表情までも冷め切っている。

そんな彼にフロアの女性はクールな表情も素敵だと騒ぐ。良いように解釈されたらしい。


ただ私はそんな風には思えなかった。今更キャラを変えて社内を騒つかせるような真似あの人がする訳がない。騒がれるのが嫌で既婚者の振りをしているんだから。

何かあったんだろうか。彼が何で悩もうと私には関係ないけど…でも、やっぱり、いつもの部長でないと調子が狂う。


久し振りに部長席に呼ばれたかと思えば、ぼーっとした表情のまま私を見上げる部長。




「部長お呼びですか。」

「ああ、沢渡さん。
これを全員に配っておいて下さい。」


「旅行のしおり…?
あ、そろそろ社員旅行なんですね。」

「そうです。お願いしておきますね。」




私に対して悪魔っぽい時も減ったし…何なの?最近。病気なの?


部長がおかしくなったのは新入社員が入ってきてからだったと思う。

先週白川梓に脅された私だったけど、正直白川君の事なんて頭の中にはこれっぽっちも残っていなくて、おかしくなった部長の事でいっぱいだった。




「ほっぴーさん。はい、しおりです。」

「おー!今年は京都かー!
京美人楽しみだなー!!!!」


「………………。」

「えっ、ちょっと杏ちゃんそんな冷たい目で
おっさんのこと見らんといてよ!」




これくらい分かりやすければいいのに。
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