格上上司は初恋の味をまだ知らない。
「私のせいってどういう意味ですか。」
「自分で考えろよ。」
「じゃあもう結構で「待てよ。」
パシッと手を掴まれる。腕やら手首やらは今まで何度も掴まれてきたけど手は初めてだなーなんて、そんな事を頭のどこかでぼんやり考えていた。
眉間に皺を寄せて、見るからに嫌そうな顔をしているくせに掴む掌に力を込める部長。顔と行動が合ってませんけど。
「じゃあどうして
皆と同じような態度を取るのか
教えてもらっていいですか?」
「…お前、白川とキスしただろ。」
睨んだまま耳を赤くする部長。それにつられて部長に知られていた事が恥ずかし過ぎて顔から湯気が出るくらい私も赤くなってしまった。
「っあれは!無理矢理されたんです!」
「は?付き合ってるんじゃねえの?」
「流石に入社数日で付き合うのは無理です。
そんなスペックがあればもう彼氏います。」
「確かに。」
「はい?」
何なの何なの何なの?何で知ってんの!?
いつの間にか戻った距離感に安心しながらも白川が部長に直接言ったと考えるとゾッとして変にドキドキした。ジェットコースターに乗る前みたいなやつ。心臓に悪いやつ。
急にクスクスと笑い始めた部長。遂に頭がやられたのかもしれない。怖い。
「そういうことか。白川も可哀想にな。」
「お前に惚れるなんて。」
そう言い放つや否や後ろ手で腰を引き寄せた部長に、バランスを崩して前のめりにテーブルに手をつく。至近距離で目が合ってしまいドキッとした。
いつも冷たい目をしているくせにこういう時にだけ熱っぽく見つめてくるのだから、また体温が上がる。
「なあ、キスしたいか?」
一瞬耳を疑った。
部長の股の間にすっぽり入っている状態で身動きがとれない今は離れる事さえ許されない。
動揺が伝わらないようにと声を落ち着かせるので必死だった。
「…はっ?わ、私がそんな事
思うわけないじゃないですか。」
「へえ…物欲しそうな顔してるくせに
よく言うよ。杏ちゃん?」
「っ~~~~~~!」
名前呼びの破壊力は今まで何度も少女漫画で知っていたつもりだったけど、これは本当に心臓に悪い。っていうか物欲しそうにしてないし!
顔を真っ赤にして肩をブルブル震わせると全身全力で部長の腕から逃れようともがく。
「ははっ、顔真っ赤。」
「誰のせいですか!!!!」
もうこんな事をされる意味が分からなくなって、涙目になって睨むと今度は優しい顔を見せる部長。
「俺はしたいよ、キス。」