格上上司は初恋の味をまだ知らない。
最低最悪な月末から一晩明けた本日。今日から4月。
ウエディングプランナーとしてSAGARAホールディングスで働いている私は、フロアの中でも経理部に所属している。
主にマネープランをサポートし、式場の用意やドレスの試着まで無事に式を終えるまでが私の仕事。
今日も予約のお客様が何名もいらっしゃって、いつも通りの毎日がこれからも続くと思っていた。
あの人が邪魔さえしなければ。
電話対応をしながら一息ついたところでほっぴーさんと目が合う。
「あぁっ!杏ちゃん!!昨日の呑み…
「沢渡さん、コーヒーお願いします。」
「…すみませんほっぴーさん。昨日…
「平田君ちょっといいですか?」
「…………。」
「はははっ、今日の部長はご機嫌斜めだな~」
ほっぴーさんは、会話を邪魔されたっていうのに何故か楽しそうに部長の元へ駆けて行く。
その先にいる部長をキッと睨みつけてみたけど勿論相手にされる訳も無く、ただ上司の指示を無視するわけにもいかないので結局席を立つことになった。
「コーヒー淹れてきます!!!!」
昨日まではコーヒーなんて言ってこなかったのに何なのよ!本当に!!!!
「くっくっく…あー面白い。」
「ああもう本当にムカつく!!」
平気に話しかけてくるのも、平然な顔でいるのも全てが苛立たしい。
あんな人を好きになる訳ないから!絶対!!
部長の好みなんて知らなかったけど熱々のブラックコーヒーを淹れて直ぐにデスクの前まで持って行く。
ガシャンと音を立ててテーブルに置くと、それからやっと私の姿に気が付いた様子で目線をこちらに向けた。
勿論、手元はキーボードのままで。
「ありがとう。手首、痛み引いた?」
「お構いなく!!!!」
彼はいつもと変わらない。仕事中はいつも菩薩様みたいな穏やかな表情をしているもの。私もそれに騙されてたんだわ。
カツカツとヒールの音を立てて自席まで戻ると、直ぐにお客様と打ち合わせのため資料を持ってオフィスの扉をバアアァァンと閉じる。
ほっぴーさんが笑っているような気がしたけどこの際気にしない。
会社のフロントには直ぐ横にお客様の相談カウンターがある。式の流れやマネープランの提案、お客様との打ち合わせはほぼその場で行う。
だから私達ウエディングプランナーはほぼ毎日このフロントを行き来するんだけど、客様や訪問者、他企業の幹部なんかも多くいるのでここを通る時が一際緊張するんだ。
怒りに任せて足音を立て過ぎないようにカウンターまで歩いて行くと、背後からトントンと肩を叩く手。