Love Eater Ⅲ
「あなたはだあれ?」
夜中というにはまだ早い夜半、明かりも持たず送り込まれた場所は目が馴染めばなんとか薄っすら物が見える程度。
物といってもその場所は干し草などを保管する納屋の一つ。
薄っすら浮かび上がる形も知れている。
目の前の人型以外は。
レンガ造りの納屋の奥、壁に寄りかかって座っていたらしい姿は物静かに立ち上がると靴音もさせずに近づいてくる。
まるで幽霊のように。
細身で小柄にロングドレスのシルエット。
それと先ほどの凛と響く声音は女性の物。
明るみの下で響くものであったならどれほど人々の心をくすぐる優しい声であったのか。
それでも、こんな闇夜の閉所的な空間ではどうしても恐怖心の方が煽られてしまうものだ。
普通なら。
それでもどうやらこの場に居合わせる少年は違うらしく、近づく姿に表情を強張らせるでもなく、怯むでもなく、ただぽつねんと女が目の前に来るのを待っているのだ。
歳は5、6程だろうか。
決して物のわからぬ年ごろではない。
このくらいの子供であるなら暗闇や怪奇などに怯え泣いてもおかしくないというのに。
そんな違和感に近づいていた姿も気が付いたのだろう。
一瞬戸惑うように近づく足を止めたのだが、すぐに歩み直して少年との距離を詰めてしまう。
そして口を動かしかけたタイミング。
「あんたを殺せって言われた…」
少年の口からそんな言葉がポロリと落とされ、その手には小さなナイフが緩く握られている。