Love Eater Ⅲ
少年の言葉は当然伝わっているし、その小さくも鋭利な切っ先を捉えてもいるのに。
「……そうなの」
対面する女もまた怯み逃げ出す様子など一切見せず、それどころか静かにしゃがんで少年と目線を合わせてきたのだ。
とはいっても暗闇の中。
少なくとも少年の目に女の細かな顔の造りまでは捉えられていない。
そして、そんな事にも興味がない。
ただ、小さくも疑問は抱いたらしく、
「……逃げないの?」
「逃げてほしいの?」
「逃げると思ってたから」
「じゃあ、逃げてあげない」
「……いいの?殺すよ?」
「殺したいの?」
「殺せって言われたから」
「じゃあ、殺されてあげない」
会話としては物騒とも言える内容であるのに、どうにも緊迫感が生まれぬのは女のゆるりとした受け答えのせいだろう。
殺すと脅されナイフを握られているにも関わらず臆する様子などなく、寧ろその声音は微かに楽し気な調子にも感じらる。
流石に少年の方も変な女だと思い始めるほど。
それでも何もかもが面倒くさいと感じて生きているのがこの少年なのだ。
面倒くさい。
煩わしい。
おふざけにもこんなところに送り込んだ村の馬鹿な奴らも。
『殺してこい』なんて命令も。
目の前の女も。
こんな風に思考する事すら面倒くさいと結論を下した少年がナイフを振り上げる事に躊躇いはなく、次の瞬間には女の胸元めがけて切っ先を下したのだ。