Love Eater Ⅲ



それでも、沈黙の時間が永遠に続いたわけではなく。

不動であった時間に動きを見せたのは女が先。

スルリと少年の頬を撫でた指先はそのまま滑りおり、細首に絡むように動きを止める。

少年がほんの微々たる圧迫感を感じると同時。

「……殺されたいの?」

再び女の口からそんな質問返しが響いてくる。

それでも殺意的な狂気のちらつく声音ではなく、先ほどと変わらぬ柔らかいもので。

「……無駄だから」

「何が?」

「僕が」

「誰にとって無駄なの?」

「みんな」

「あなたにとっても?」

「……」

「あなたもあなたを無駄だと思ってるの?」

「……わからない」

「じゃあ……殺してあげない」

「っ…!?」

そんな結論と同時に首に巻き付いていた指先はするりと外されたのだが、次の瞬間には場所を変えて少年の頬をきゅっと摘まんで横に引いてくる。

決してそれほど痛くはない力加減。

それでも痛みが伴わない程度の行為には逆に戸惑ってしまう少年がいる。

邪魔者とされ生きてきた中当然痛みが伴う仕打ちもされてきている。

誰かが少年に触れる時というのは大抵嫌悪や蔑みからの攻撃的なもの。

だから、女から為された痛みとも言えぬようなこの行為にはどう捉えていいものか戸惑ってしまったのだ。


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