Love Eater Ⅲ
「それに…お前……いい匂いがする」
「そう?」
「それなのに……勿体ない。……無駄じゃない」
何の価値もなく生み出しも出来ない自分とは違って、ふわふわと柔らかな何かを自然と与えてくれるこの女が無駄な存在の筈がない。
そんな感覚の吐露。
最初こそ馴染みもなく驚き畏怖してしまったが、落ち着いて受け入れてしまえば実に心地のいいこと。
離れがたくなってしまうほど。
縋りつきたくなってしまうほど。
こんな良いものがあったのかと何故だか悲しくもないのに泣き出したくなってしまう程。
そんな心をさらに煽るように。
スッと近づいた女の唇は少年の耳元で今までで一番優しく、
「……あなたも、本当はこんな優しくて賢いのに無駄なはずない」
「っ………」
そんな言葉を弾いたのだ。
その瞬間、少年が弾かれたように顔を上げれば真っ先にぶつかったのは実に澄み切った水色の眼。
そこからゆっくり広がった視野で捉える女の顔の美しさは子供ながらに息を飲むほど。
長い濡羽色の髪は一本一本が繊細に艶やかで柔らかな風でもフワリと舞う。
色白の肌は月明かりという化粧でさらに明度が高く、それでいて頬や唇ばかりはほんのりと薄紅で彩られている。
そして、人形のような小顔に睫毛の長い大きな目。
もっと大人の女であると思い込んでいたのに、明確になってみれば18前後の少女と言えそうな姿である。
それでも少年から見れば十分に大人の女という認識であるのだが。