Love Eater Ⅲ
「上手に泣けて良い子だわ」
どこまでも優しい声音。
それには少年の雁字搦めとなっていた糸をときほぐす効果があったらしく。
「っ……泣いても…怒らない?」
「泣くのは当たり前の行為だわ」
「痛いのも…怖いのも…我慢しなくていい?」
「そうね。少なくとも今は」
勿論、時と場合による。
成長する中で痛みにも恐怖にも堪えねばならぬ場もある事だろう。
それでも、生まれてから我慢しか知らぬ幼い少年なのだ。
初めて自分の我欲と甘えを口にしたこの時に人生のイロハを説いて何の意味があるのか。
そんな物はゆっくり順番に教えていけばいい。
ただこの瞬間は少年の欲求を受け止め、よく頑張ってきたと抱きとめてやればいい。
今もまだどこか感情の結界に堪えているような姿を突き崩すように。
少年の頭をひと撫でしキュッと抱き寄せてしまえば最後の砦。
「っ……ふぁっ…うわぁぁぁ、」
今まで溜めに溜めた涙が溢れ落ち、吐き出す事の出来なかった感情は嗚咽となって響きはじめる。
不安まじりの。
それでも初めて得た温もりに安堵も覚えながら。
それこそ、赤ん坊の産声の如く。
そんな刹那、まるでその時を見計らったかのように濃紺の空に数多の星が流れ落ち始めたのだ。