Love Eater Ⅲ
「よく…ここがわかりましたね」
懐かしくも痛みが広がる回想の果て。
瞑想の如く目蓋を下ろしてはいたが迫る気配くらいはだいぶ前から気が付いていたのだ。
それでも今の今まで。
いや、今現在も特別警戒心を抱かずにいたのは迫りくる人物の正体も把握していたから。
場所は異国の古ぼけた空き家。
いや、空き家というのも憚るほど現代的でなく、もっと詳細を突き詰めれば石作りの小屋。
何十年…何百年も前の遺物とも言えそうな、現代ではとても生活居住区とは言えないような小さな建物なのだ。
当然内装であってもお洒落な調度品などがあるわけもなく、ただ昔ながらの暖炉の跡だけがぽつんとあるばかり。
そんな建物の真ん中で椅子に身を預け回想にふけっていたのは時雨の姿で。
先ほど投げた言葉は自分の背後に向けて。
背後にあるこの小屋唯一の出入り口。
そこに静かに立つ姿に向けて。
そうしてようやくゆっくりとその身を立ち上げ振り返ると、穏やかに微笑んで相手を見据えるのだ。
「……まさか、あの状態から息を吹き返すとは驚きましたよ。…リッカ君」
自分にまっすぐ銃口を向けているソルトの姿を。
「……蓮華の機転と六花の血のおかげだ」
「成程。本当に愛されていますねリッカくんは。でも、君が生きていてくれて僕も嬉しいですよ」
「殺しかけたくせに?」
「あれはやむを得ずですから。言ったでしょう?これでも僕はお人好しな君が好きなんですよ」
この言葉は時雨の本心。
『お人好し』なんて言葉も決して嫌味ではなく、寧ろ賞賛に近い感情からのもの。