Love Eater Ⅲ
殺めかけた事についても、たまたまソルトが都合悪く対象に当てはまってしまっただけ。
致し方なしにあの行為に至ったに過ぎず。
事が思惑通りに行かなかった今となっては、ソルトが一命を取り留めていた事は喜ばしいと本心から思える事なのだ。
ソルトもまたそんな時雨の心情を疑う気はない。
それでも、手に握る銃を下ろしてみせるでもない。
視線であっても時雨から一瞬でも逸らす事はなく、張り詰めた糸を緩めることはなく。
「あんたを…殺しにきた」
そんな結論を情など揺らさぬ眼で告げてくる。
その言葉にも意思にも迷いがないのは時雨の目からも明確。
それでも時雨がソルトの殺意に怯むような事もない。
「…そうですか。…では、よしなに」
そんな言葉を弾いた姿は抵抗の意思などまるで皆無。
寧ろ『さあ、どうぞ』と軽く両手を広げてそれを促してまで来るのだ。
「……抵抗…無しか?」
「今の僕に執着しなければいけないほどのこの世への価値や未練はありませんよ」
「……じゃあ、なんでさっさと死ななかった?俺がここに来るまで時間は十分にあったはずだろ」
「…ありましたねえ。…ありすぎたくらいです。早く誰かこの不毛な生を終わらせてくれないかと焦れて焦れて。……自分では手折る事の出来ぬこの命を…」
夜音の生から紡いだこの命を。