Love Eater Ⅲ
夜音の血の流れる体は死ににくくも不死身とは違う。
だからその生を終わらせようと思えば可能ではあったのだ。
己の命など今更惜しむ情もない。
なんなら今すぐにでも断って楽になってしまいたいと思うほどに。
それでも自分を殺めるということは自分の中で息吹く夜音の気配を殺めるということ。
そんな事を時雨が出来る筈もなく。
だからこそ、ただ苦痛に苛まれながら待っていたのだ。
自分を殺めてくれる存在を。
「水月あたりが殺してくれるかと思っていましたが……リッカくんでしたか」
「悪いな。魔王様直々のご指名だったもんで」
「魔王?」
「あんたって存在は人間の生態系を乱す危険因子なんだと。私情によって自ら魔を取り込んだ人外になりその力を乱用した。だから、その生と共に力を返上せよとの事だ」
「おやおや、知らぬ間に随分規模の大きな話に。魔王とは……フッ…、今生の終わり、それも最後の最後でなかなか面白い話が土産となりましたよ。それに……どんな理由があってかは知りませんが処刑人となったのがリッカ君で良かった」
「どういう意味だ?」
「僕の勝手な理想みたいなものですよ。お人好しに命を与えられ、お人好しに命を手折られる。実に完成された人生の終幕だと。それに、君には最愛の恋人を奪おうとした私を殺めたいという理由もある。……お嬢さんには申し訳ないことをしました」
これ以上なく条件は整っているといえるこの状況に今更今更唱えたい意など時雨にはないのだ。