Love Eater Ⅲ
いつの間にか無心で遠くの人の列に向かっていた時雨もその声音の引力には逆らえずに振り返ってしまった。
そうして捉える姿はいつからそこに居たのか。
通り過ぎたばかりの背後にどこからともなく現れた小柄な女がちょこんと立って時雨を見つめ上げてきているのだ。
この少女は…誰であろうか?
不思議とどこか懐かしい。
声も、姿も。
「……『坊や』とは……僕の事でしょうかお嬢さん?」
「私たち以外近くに人はいないわ」
「成程。それでも『坊や』と声を掛けられるほど若い見目でもないと思うのですが?」
「フフッ、私も『お嬢さん』なんて呼ばれるほど年若い女じゃないのよ?」
コロコロと笑って返されるのはどこか悪戯心の垣間見える言葉遊び。
どこまでが冗談でどこからが真実であるのか。
どんな意図があってこうして自分を引き留めに来たのか。
それにしてもだ、
「………なんだか、誰かに似ているような気がしますね。あなた」
「ええ、よく言われるわ。……特にここに来る人にはいつも」
「いつも…。つまり、あなたはずっとここに?」
「ええ、ずっと。気が狂うほどに長く。……そしてこれからも」
「それは……自分の意志でですか?」
「……今までは…仕事で…罰。これからは……意志かな」
「……それは何やら複雑な事情がおありのようですね。何はともあれこれからはご自身の意志ということですので、お仕事頑張ってください。それでは、」
何か特別な用があっての声かけかと、一応は探りながら会話を続けてみたものの、どうもその少女に困った様子など見受けられない。