Love Eater Ⅲ



ただの暇つぶしでの声掛けであるならもう十分に相手は努めただろうと、少女に背を向け歩き出しかけていたのだが。

「っ……あの?服を放していただけませんか、お嬢さん?」

「……どこに行くつもり?」

「どこって…あちらで列をなしてる皆様と同じところに」

「ダメ」

「はて、『ダメ』とはまた。行くか行かないかは私の自由でしょう」

「行ってはダメ。あなたはここに残って私と居るの」

「ここに?あなたと?なんでまた?どんな理由があって?」

「私が貴方と居たいから」

「………失礼します」

「ダメぇっ……」

話にならない。

何を自己中爆発な理由で人の逝く手を阻んでいるのか。

今も何をとち狂ったのか服を掴むのじゃ飽き足らず、背後から時雨の胴体に腕を巻き付け引きずられながらも待ったを掛けにきている始末。

一体なんの拷問なのか。

いや、もしかしたらこれが地獄の沙汰ってやつなのだろうか?

これが地獄?

こんな訳の分からない女の自己中に気が狂う程翻弄されろという刑罰なのか?

あまりのしつこさと鬱陶しさにさすがの時雨も表情が崩れるというもの。

いや、そもそも温厚な性質であったのはそれこそ長く生きてきた中での晩年あたりで、本来の時雨はなかなか気の強い性格の男であったのだ。

記憶のない今となっては本来の性質の方が剥き出しになりやすいもので。

< 126 / 161 >

この作品をシェア

pagetop