Love Eater Ⅲ



何百年もかけて思いを馳せた存在。

その記憶が戻ってしまえば訳の分からなかった女の正体が恋焦がれた存在だったと理解する。

数百年越しの思いの果ての再会であるのだ。

この瞬間を求めてどれほど苦悶の日々を過ごしたのか。

どれほどの非情に手を染めて色々なものを傷つけてきたのか。

どれほど言い尽くせない感情を腐敗させ生きてきたのか。

それらを一気に開放し精算できるのはこの瞬間だと思っていたのに。

そんな時雨の心中など初めて出会ったころから汲み取っちゃくれないのがこの魔女……夜音なのだ。

どこまでも自分のペースで物を言い。

どこまでも自分のペースで行動してしまう。

こんな重要な瞬間さえも。

それには、100年の恋も冷め……はしないがそれに近く落胆してしまうのは致し方ないというもの。

本当、この馬鹿女。

人がどんな思いで今まで…。

どんな思いで罪を重ねて…。

どんな思いで………、

「時雨、」

「っ……」

「…………やっぱり……私の坊やは綺麗ね。……昔よりずっともっと……」

そう言って微笑む夜音の姿もまた昔と変わらず。

いや、昔以上にずっともっと。

ずっとこの笑顔が恋しかった。

ずっとこの指先の感触やぬくもりが恋しかった。

ずっとこの声音が……、憎たらしいほどのお人好しの部分さえも。

ずっと、ずっと………恋しくて恋しくて…人を傷つけ踏みにじれるほど恋しくて。

なのにっ…

「っ………いつまでも……子ども扱いしてんじゃないですよっ!」

なんだよ『坊や』って。

もうとっくに『男』だろう?

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