Love Eater Ⅲ
「……傷痕が…無い」
それは確かにくっきりと残るものであったと記憶している。
どうしてもこれ以上の治癒は難しいだろうと、あのとき口にしたのは百夜自身であるのだから。
魔女に貫かれた掌の傷痕。
それが今のソルトには見受けられず、血には染まっていても皮膚は綺麗な状態でそこにある。
何故なのか。
そんな疑問に突き当たり、その要因を探り始めてみれば思いがけず今の瞬間にも微々たる希望がチラつき始める。
それを確めるようにソルトの服を剥ぎ弾痕を確め患部に触れてみれば再び弧を描き始める百夜の口元。
「うわぁ、変態チックっすよ百夜サマ。リッカの服剥いで傷口触って笑ってるとか」
「フッ…いやぁ、なに。殺しても死なぬ男だと思うてのう」
「そりゃあそうでしょ。魔女の寵愛ストーカーを受けてる残念な神父なんだから」
そんなどこかふざけた掛け合いが出来るのもこの事態に好転の兆しを見出したから。
百夜の安堵の笑みを見た瞬間に蓮華もまた悟ったのだ。
ソルトの安否を。
そして百夜もようやく、
「リッカの身体で再生能力が働いてる。緩やかだが確かに。……六花の再生能力が」
見出したそんな好転の兆しを口にしたのだ。
六花の再生能力。
決して六花のそれほど迅速で強力ではない。
それでも確かにソルトの体内では元の状態に戻そうと細胞が働いており、すでに傷を負っていた血管などは修復され出血は止まっているのだ。
とはいえ、それの譲渡などそれこそソルトも六花でさえも知らぬ事実。
その力はまさに魔女の加護。
たった一滴。
偶然にもソルトの身に吸収された一滴。
六花の一滴の血液によってもたらされた再生能力。