Love Eater Ⅲ
誰に似ているなんてまるで分かっていないのに。
それでも、…それでも、
「あんた……似てる。…俺の知ってる誰かに」
分かってるよ。
おかしな事を言ってるって。
それでも、似てると感じたんだ。
その長い濡れ羽根色の髪も、
細身で華奢な体つきも、
少し垂れ目の大きな目も、
長い睫毛や唇も。
似てる。
でも、本人じゃないと言う事もなんでなのか分かってしまっている。
まさにそんな事を思ったタイミング。
「そう…じゃあ、その人があなたの大切な人なのね。一体どんな姿でどんな人なのか、私には分かりかねるけれど」
どんな姿か分かりかねるとは不思議な言い分だ。
自分の出で立ちを思い出せば自ずとその姿も浮かぶだろうに。なんて、一瞬はソルトも頭に過ったのだが。
「っ……あんたも…記憶がないとか?…その…自分の姿さえ…」
「そうね。何も覚えてないわ。……ううん、忘れてしまったと言う方が正しいのかしら」
「やっぱり…俺は死んでるのか?」
「いいえ。…死んでるとは違うの。強いて言うなら…その狭間。生と死の狭間って言うのが1番理解しやすいのかな」
「……あんたは誰だ?俺と同じ状態に括るには状況を把握しているみたいだし」
「…あなたよりはと言う程度の物よ。私が誰かは私が知りたい。名前も顔もどんな人間だったかもここにいる間に忘れてしまった。あなたが見ているこの顔でさえ本物じゃない」
「どういう…事だ?」
「………罰なの。……確か、罰だった筈なの。ここに居なさいと、ここで迷い込んできた魂の導きをしなさいと。だから、私は鏡の様に迷える魂が一番に求める姿が反映する」
分かったかしら?
そんな控えめな微笑を一つ。