Love Eater Ⅲ


目の前に現れた女の言う事を全て把握する事は難しいかったが、それでも自分の置かれている状況は薄っすらと理解できるものであった。

つまりは、

「俺がここから戻れるかは俺の記憶次第って事か?」

「その通りよ。私は導くのが役目。とは言っても、ここには滅多に人は来ないわ。みんなあんな風に川の向こうへと渡ってしまうものだから」

あんな風にとはどんな風にであるのか。

女の向けた視線の先にソルトも追って視線を向けたが捉えられるのはただの平原のみ。

誰もいないその景色は女の捉えるものと異なっているらしい。

きっと映って存在しているのだろう。

導く必要のない者達が。

それにしても…、

「よく似てる…」

「ん?」

「あ、いや、似てるって思うだけで誰にとかは分からないんだけど、」

「ダメよ」

「えっ?」

「分からないなんて手放しては駄目。寧ろ似てると感覚が騒めいたならそれを捕まえおく様に足掻いてもがいて思い出して」

「……」

「でないと、帰れなくなっちゃうわ。私みたいに」

「帰れないって…、あんたはいつからここに居るんだ?」

「……さあ。でも…もうずっと長く…気が狂うくらいに遠く」

「それは…何年もってことか?」

「……そう、…何年も。…ううん、きっと何十年…何百年も」

「何百年…」

「…私のことはいいの。今はあなたの…」

「いや、良くねえだろ。ってか、寧ろ俺よりあんたのが先に思い出す努力するべきだろうが」

「……へっ?」

彼女にとっては今更な私情。

まして、導く役割を担っているところに迷える魂が現れたのだ。

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