Love Eater Ⅲ
「っ………」
「どうした?」
「……分からない。…けど、今…懐かしい声がした。…懐かしくて、…愛らしい」
誰の声だっただろうか?
まだあどけない子供の声。
成長期に至らぬ少年のソプラノボイス。
呆れ混じりの叱責。
それでもどこか仕方ないと認めてくれているような。
そんか懐かしい声音と存在。
ああ…胸がざわついて仕方ない。
心が急いて急いて苦しい。
よくわからない悲痛までもの恋しさが喉元まで込み上げてくるのに。
未だクリアにはならない記憶が歯痒くてもどかしくて。
「っ……もどかしい、」
気がつけば彼女の表情は悲痛なほど苦悶にそまり、その双眸からは大粒の涙が次から次へと溢れ落ちていく。
すぐそこにあるのに。
手を伸ばせば掴めそうなのに。
今もまさに記憶の端を捕まえかけるのに、まるで霧の様にするりと掌からすり抜けていく感覚には、
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
「っ………六花!!」
彼女の絶望に近い悲痛な声音が響いた刹那。
それまで聞き手として見守っていたソルトだったが、彼女の様子から冷静が薄れていく程に。
その眼から正気が失われる程に。
その口がとうとう悲痛な感情を叫びを上げた瞬間に。
記憶を覆っていた濃霧の様な物が一瞬だけ裂け目を見せたのだ。
一瞬だけ。
それでもそれだけで十分。
直ぐ様また濃霧が記憶を覆い隠しても意味はない。
すでにソルトは記憶を明確にする重要なモノを音にして響かせていたのだから。