Love Eater Ⅲ



その姿に類似した彼女をきつく抱きしめながら、

「……六花。……戻らないと」

掴んだ記憶の端を辿る様に改めてその名を口にしてしまえば、途端に全ての記憶が脳裏に広がってくる。

それと同時、今までモノトーンであった景色まで本来の色彩を取り戻して鮮やかになったのだ。

「俺は……六花りっか。神父で……狼の魔混じり」

「………そう、…あなたは思い出せたのね」

「……あんたのおかげでな、」

そう、彼女のおかげ。

ソルトには六花の姿として映っていた彼女のおかげ。

あの悲痛な悲鳴と絶望に近い姿を見た瞬間に六花のそれと重なったのだ。

ソルトが見た最後の六花の姿に。

「っ…俺は、…その姿に滅法弱い。…あんな顔されたら特にな、」

「そう、」

「早く…戻ってやらねえと。あの馬鹿…俺がいないと本当に危なっかしいから、」

「じゃあ、…早く戻ってあげて」

「ああ、戻らねえと。……戻らねえとな」

「……ねえ?あの、どうしたの?何故戻ろうとしないの?」

何故…今もキツク抱きしめて離れようとしてこないの?

早く戻りたいという感情はソルトの声音からも充分に溢れて感じ取れるというのに。

どうしてかその姿は未だ彼女を抱きしめたまま行動に移そうとはしないのだ。

一体どういう葛藤ゆえのこの行動なのか。


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