Love Eater Ⅲ


まるで人ばかりが時を止めてしまった様なそんな空間であったのだが、不意にふらりと動きを見せた姿があり。

硬直したままの六花の目前、スッと身を屈めた姿は無残に地面に伏っするソルトの身体に触れるのだ。

そうして、沈黙の間を数秒。

弧を描いた唇が緩やかに動きをみせると、

「不器用に誠実なあなたが好きでしたのに。殺してしまう事になったのは実に残念です。リッカ君」

ソルトの命が尽きていると、暗に告げる様な一言を弾いたのだ。

時雨が。

「時雨ぇっ!!」

そんな一言がまるで気付け薬であった様に、ようやく感情を空気に震わせたのは百夜の姿。

普段、感情の起伏など僅かばかりにしか面に出す事はない男。

どんな時であってもどこか掴み所のない笑みを携え相手を煙に巻く男。

それが、抱く怨恨のままに顔は歪み、今にも飛びかからんばかりにその身に力を込めている。

まさに、震え上がる程の魔物の気迫と言えるものであるが。

「動けぬ体で何を凄もうと無駄ですよ水月」

百夜の気迫に臆することなく、ただにこりと笑い返す時雨は静かに六花の元へと歩みを進めてしまう。

「止めよっ!その子に触れるなっ!」

そんな百夜の声に抑止力は無く、思いとは裏腹にソルトの血に染まった時雨の掌は優しい所作で六花の頬を撫で涙の痕跡まで消してしまうのだ。


< 4 / 161 >

この作品をシェア

pagetop