Love Eater Ⅲ
そして未だ瞬きすらしない水色の双眸を覗き込み微笑みながら囁くのは、。
「もう、あなたがあなたでいる要は居ない」
「………」
「どこにも」
「…………………っ…………い………な…い」
絶望の一言。
まるで呪いまじない。
その一言が最後の防壁を崩すような。
残酷な現実から身を守るように無意識に思考を停止させていた六花の最後の足掻きすら突き崩すような。
もう居ないのだと、視覚で示し、嗅覚で示し、聴覚で示し、六花の自我の存在意義を崩壊させる呪い。
そして、その響きは無情にも六花の芯に響いて、受け止めきれなかった現実にポロポロと綻び始めるのだ。
「も……居な…い。どこにも……。僕の…生きる……理由…」
「そう、もうあなたという意識が存在する理由や意味はない」
「……いない、……ない……僕の……」
「可哀想に。もう六花として思考し嘆くのも疲れたでしょう?」
「僕………僕は……」
「そう、手放して楽になってしまいなさい。恐がらなくていい、今度は僕が醒める事のない甘い生を与えてあげますから」
時雨の呼びかける声は実に優しく実に残酷。
すでに六花の自我は何もせずとも崩れゆく一途であるというのに、あえて更にそれを散らす様に言葉で煽りをかけていく。
そう、六花にもう抗う思考なんてない。
抗う意味も失せているのだ。
時雨の言葉のままに六花として存在する意味も希望もなくなってしまった。
失ってしまった。
消してしまった。
自分に命を吹き込んでくれた唯一を。
誰の為に欲を知り、誰の為に人となり、誰の為に生きてきたのか。